蝶を飼う男 シャルル・バルバラ幻想作品集 書評|シャルル・バルバラ(国書刊行会 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年11月23日 / 新聞掲載日:2019年11月22日(第3316号)

蝶を飼う男 シャルル・バルバラ幻想作品集 書評
メランコリックな孤立の諸相
フランス文学史上の《知られざる鬼才》、シャルル・バルバラ

蝶を飼う男 シャルル・バルバラ幻想作品集
著 者:シャルル・バルバラ
翻訳者:亀谷 乃里
出版社:国書刊行会
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 本国フランスでもあまり知られてはいないという作家の初の翻訳短篇集で、全五篇。バルバラは十九世紀半ばに活動した作家である。世紀末作家というには少し前の時代だが、後の予感を多く含む。

最初の「ある名演奏家の生涯の素描」は題名通り音楽家の生涯を辿るものだが、彼はその能力の極みのところで桁違いの名手に出会い、それからは自己の未来を見失い、次第に零落してゆく。この物語の特異なところは「名演奏家」といいながら、本当に世に容れられたのはごく僅かの期間で、後は雪崩れてゆくような転落ばかり描かれるところである。何か胸が痛むが、最低の町楽師に落ちぶれたその人生の最後に、高級市民には知られない場所でだが、ひとつの達成を見せる。読了した後は、人生の岐路に垣間見られた彼の「あるべきだった未来」の切ない幻がそれとなく思われてくる。

「ウィティントン少佐」は私としてはこの作品集中最も面白く読めたものだ。驚くべき発明の数々を実現させている富豪ウィティントン(あるとき軍隊での号を買い少佐となる)の屋敷に来た人々の前に広がる、すべて機械仕掛けの風景、自動装置、人工の食物、自動人形たち、それらはおそらくポーの『アルンハイムの地所』以来の人工楽園の系譜にある発想だろうが、本邦なら江戸川乱歩の『パノラマ島奇談』に似た、幻惑的な遊園地を思わせる。ただしそれはすべて屋敷内でのパノラマで、かつ、ウィティントンは家族と呼ぶ精巧極まりない自動人形とともに暮らしている。その閉鎖的な孤独感はユイスマンスの『さかしま』を予見させる。一方、別の視点から、機械・科学技術への手放しの信頼は二十世紀初頭のモダニズムのそれに通じ、そのさらに後に普及拡大するSF的発想の萌芽もある。

「ロマンゾフ」は正確無比で見破ることのほぼ不可能な贋札を作ることのできる男が、その周囲にはきわめて温情溢れる施しをしていた話で、途中、彼の哲学が当時のある傾向(フーリエの思想等)をもとに語られ、訳者によればそこをよく知って読めば興味が増すとのことだが、私としては、魔術師にも似たジェントルな贋札作りの名人が、近代資本主義の根本的な条件(貨幣)への信頼を思うさま嘲弄することで、ある復讐を見せた記録のように読めた。

表題作「蝶を飼う男」は、当時不可能な、昆虫を自在に飼育する稀有の能力にもかかわらず世に冷遇され続けている男の嘆き語りだが、何をやっても踏みにじられる記憶の貧しさがリアルで、こういう作家や芸術家、いるよなあと溜息が出る。

ラスト「聾者たち(後記)」は短いファルスで、スラップスティックな展開の後それなりに収まるところがまたおかしい。

全体に、世に理解されないマイナーな天才の奇行録といった趣が強く、おそらくまるで影響関係はないだろうけれども、現在ならスティーヴン・ミルハウザーの描く奇談に通じるメランコリックな孤立の様相に触れたようだった。
この記事の中でご紹介した本
蝶を飼う男 シャルル・バルバラ幻想作品集/国書刊行会
蝶を飼う男 シャルル・バルバラ幻想作品集
著 者:シャルル・バルバラ
翻訳者:亀谷 乃里
出版社:国書刊行会
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「蝶を飼う男 シャルル・バルバラ幻想作品集」出版社のホームページはこちら
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