京都詩人傳 一九六〇年代詩漂流記 書評|正津 勉(アーツアンドクラフツ)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年11月23日 / 新聞掲載日:2019年11月22日(第3316号)

京都詩人傳 一九六〇年代詩漂流記 書評
「閉鎖京都系」詩人たちの 詩的光芒
60年代の京都で疾風怒濤を体験する物語

京都詩人傳 一九六〇年代詩漂流記
著 者:正津 勉
出版社:アーツアンドクラフツ
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 読むほどに、言葉が突き刺さる一冊である。60年代京都といえば、学生運動、フォークなど若者文化の盛り上がり、つまり熱い時代。それを背景にしながら論じるのは、深く影響を受けた天野忠、大野新、角田清文、清水哲男、清水昶の五詩人とその周辺だ(ゼミ担当教員だった鶴見俊輔も詩人として登場する)。同志社大学ですごした64年〜69年を中心に、彼らの活動が評伝的に紹介され、それはまた正津勉の詩人としての出発でもあった。

彼ら五人は、詩人・山前實治が社長を務める印刷所・双林プリントを中心に詩的交流をもった。なかんずく大野はそこの印刷工でもあった。昶と正津の同人誌「0005」はそこで作られ、二人は大野の厳しい批評と愛情を受ける。双林プリントは多くの京都詩人にとって「詩的戦略の要衝」(角田清文)だった。

手で活字を拾い、輪転機を回す。言葉がそんな空間にあった時、詩人がどれだけ濃密に書くことに向き合ったか。もちろんインターネットもファックスも無く、込み入った話をするには会うしかなかった。言葉は、活字という物質だった。そうした協働と相互批評の時代の詩人たちの試行を、本書は丁寧に追跡する。本書の言葉で言えば、東京とも大阪とも異なる「閉鎖京都系」。そこから天野の疑似・生活詩の試みや大野と石原吉郎の出会いなど、のちに現代詩史に大きな影響を与える成果が生まれていく。埴谷雄高の言う「精神のリレー」のように、戦前世代の天野から、大野へ、正津へと〈詩〉が引き継がれていったのだ。彼らの魂を込めた言葉を、著者の現代の目を通して読めるのは嬉しい。厳選された詩の引用が本書の魅力の一つともなっている。

しかし、記述はノスタルジーに陥らない。少し読みにくい、つんのめるような文体。例えば角田清文の年譜的事実が判然としないことをこんなふうに書く。「だけどそんなことはいうたら、どうでもよろしくあるのではないか。じっさいその詩に出会ったときのあの、百言でもおよびがたいような感覚、それをいまも新しく克明にしているのだ。それだけでじゅうぶんでは、そのようにいいきかせてはじめる」。もちろん資料や証言を集めて角田を追跡するのだが、このように書くのは、対象にあたうかぎりラディカルに触れたいと考えるからだろう。現代に匕首を突きつけるように、根源へ根源へと対象にぶつかる。この態度は、著者や清水昶に刻印された「60年代」だ。そしてもう、五人のうち清水哲男しか存命ではない。今、書いておかねば。筆はますます性急になる。

しかし京都人気質とは、対象と「あくまで一定の距離をとってもらいたい」(本書・天野の発言)というものだから、ラディカルとは異質なのではないのか。そう考えると本書は、福井に生まれた著者が、京都で60年代のラディカリズムに出会い、異質な空間と気質の中で疾風怒濤を体験する物語としても読める。京都人気質を詩法にはらむ、著者からは遠いがゆえに魅かれた天野忠。京都的に、昶や著者のラディカリズムを的確な距離を取って受け止める大野新。この二人を軸に他の詩人が配置され、閉鎖京都系において燃焼した詩的青春の行方が描かれるのだ。

その帰結は? 著者の近年の詩は、ネジを巻く力を緩めるように、山や自然を清明に書く文体になっている。「あとがき」としてそんな詩が引用されるのだが、ナメクジが「どうして/わしは/生まれてきたか?」と考える「問い」をはじめとする天野の詩と、これが照応することに気づくと、京都60年代詩が形を変えて呼吸しているのを知ることになる。
この記事の中でご紹介した本
京都詩人傳 一九六〇年代詩漂流記/アーツアンドクラフツ
京都詩人傳 一九六〇年代詩漂流記
著 者:正津 勉
出版社:アーツアンドクラフツ
以下のオンライン書店でご購入できます
「京都詩人傳 一九六〇年代詩漂流記」出版社のホームページはこちら
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