バートランド・ラッセル 反核の論理学者 私は如何にして水爆を愛するのをやめたか 書評|三浦 俊彦(学芸みらい社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年11月23日 / 新聞掲載日:2019年11月22日(第3316号)

バートランド・ラッセル 反核の論理学者 私は如何にして水爆を愛するのをやめたか 書評
波乱万丈の足跡を辿り、複雑に折り畳 まれた人物像を実証的・論理的に解析

バートランド・ラッセル 反核の論理学者 私は如何にして水爆を愛するのをやめたか
著 者:三浦 俊彦
出版社:学芸みらい社
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 英国貴族の末裔に連なるラッセル卿(一八七二―一九七〇)は二〇世紀を代表する哲学者の一人である。『プリンキア・マテマティカ』というホワイトヘッドと共著の大作(一九一〇年)は、今日では数学の基礎に潜む矛盾を解決した一大業績として輝いている。だが彼は、一九〇〇年からまる一〇年にわたる苦闘の末二千頁にも及ぶ大著を完成させた挙げ句に、数理哲学からきっぱり足を洗ったと、本書の著者は記している。いったい何がラッセルに起こったのだろうか。

ラッセルは「いま、世にあふれています。表層の空気と深層の大地に」と指摘することで本書は始まる。ラッセルは今では数々の名言集の引用元として遍在し、また、数学の基礎を再建する際に創案した「タイプ理論」が、プログラミング理論としてコンピュータを至る所で支えて遍在している、というのである。

今日ではいくらかの注釈を加えないとラッセルの遍在性には気づかないが、かつては事情が異なっていた。少なくとも私の知る限りの一九六〇年代以降は、哲学あるいは哲学者といえばラッセルが必ず引き合いに出されていた。哲学なるものに引かれて最初に読んだ本は現代教養文庫に入っていた『哲学入門』、無謀に
も原書に食いつき中途で挫折した『意味と真理の探究』、そして大著『西洋哲学史』に加えて人生論めいた書物群、いずれも友人たちに誘われて手にしたものであるが、ラッセル卿は当時のベストセラー作家であった。 しかし、この哲学者が私たちに強い影響を及ぼしたのは論理実証主義という彼の哲学ではなく、反戦平和主義者としての活躍ぶりであった。ラッセルはほぼ同世代のアインシュタインとともに国際的な反核運動を組織し、世界各地で核兵器廃絶を訴えるばかりか(こ
の科学者国際会議の発起人には湯川秀樹も参加)、泥沼化するベトナム戦争に対しては哲学者サルトルたちと「ラッセル法廷」と世に言う国際裁判を開廷したのだった。このような社会運動家としての活躍は世界中の人々を勇気づけ、反戦活動に多くの若者を動員する要因の一つとなった。

本書によればラッセルは若い頃から政治に関心を寄せ、第一次世界大戦の勃発を機に駆り立てられるように反戦運動にのめり込み、その結果、領土防衛法違反によって禁固刑に処せられたとのことである。長期にわたって全数学を論理学に還元するプログラムに取り組んだ哲学者は、第一次大戦後は彼なりのやり方で介
入した社会的・政治的場面において波瀾万丈の人生を送ることになる。

ラッセルは、第一次大戦後の一九二一年に出版社の改造社の招聘により来日するが、彼を迎えた日本の人々は、最先端の哲学者であると同時に反戦思想家でもある人物に興味深い眼差しを向けたようであった。本書は、行動を起こすたびに西欧世界で毀誉褒貶の渦中に置かれ、さまざまな眼差しに曝されたラッセルの足跡を丹念に辿りながら、複雑に折り畳まれた人物像を実証的かつ論理的に解析したものである。

また、その解析手法も著者ならではで、よく使われる人間類型であるハムレット的・ドンキホーテ的を巧妙に操作して人物像解明に役立てている。ラッセルが自身をファウスト博士に擬して語った資料も、同じように使いこなして興味深い人間像が露わになった。また、ラッセルの晩年にいたる生活史が家族との葛藤も交えながら描出されていく過程は、ラッセル関連文献を読み込んだ著者ならではの記述であろう。

サブタイトルに掲げられた「私は如何にして水爆を愛するのをやめたか」という刺激的な言葉に引き寄せられて本書を通読したのであるが、それは、今日もなお続く核兵器開発と原子炉のメルトダウンという経験を踏みにじる原発温存の状況に対する不安の感情に由来する。この状況を解決する手がかりを見つけたかどうかは、現時点では不明である。しかし哲学者ラッセルが、人類文明が手放そうとしない戦争、そしてその手段としての兵器、それも最先端の科学技術を導入した最
新兵器であることを見つめ告発した記録は、私たちを勇気づけるものである。
この記事の中でご紹介した本
バートランド・ラッセル 反核の論理学者 私は如何にして水爆を愛するのをやめたか/学芸みらい社
バートランド・ラッセル 反核の論理学者 私は如何にして水爆を愛するのをやめたか
著 者:三浦 俊彦
出版社:学芸みらい社
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「バートランド・ラッセル 反核の論理学者 私は如何にして水爆を愛するのをやめたか」出版社のホームページはこちら
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