在野研究ビギナーズ 勝手にはじめる研究生活  書評|荒木 優太(明石書店)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年11月23日 / 新聞掲載日:2019年11月22日(第3316号)

在野研究ビギナーズ 勝手にはじめる研究生活  書評
「絶えず始めなおす」 研究を再起動させる書物
明日はないかもしれない、だけど、あさってはある。

在野研究ビギナーズ 勝手にはじめる研究生活 
著 者:荒木 優太
出版社:明石書店
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 喉の奥がつっかえるような、嫌な感覚。思わず、ため息が漏れる。私は、こうして、書評家と名乗っている一方で、大学院生という身分を持ってもいる。だけれども、随分と前から、大学院生と名乗ることにためらいを覚えるようになってしまった。研究との向き合い方がわからなくなっていたのである。ぼんやりとした薄明に包まれて、私はなぜ自分が研究をしているのかがわからない。大学院生だから研究をしているのか、研究がしたいから大学院に通っているのか、そんな単純なことがはっきりしないのだ。だから、他の大学院生との会合に行くと、後ろめたさを感じる。未来が、見えない。 そんなときだった、本書の編著者の荒木優太と出会ったのは。所属する学会で、荒木が講演をした。懇親会で思い切って話しかけた(本書には荒木は懇親会まで参加することはほとんどないと書いてあるので、運が良かったのだろう)。後日、何かのヒントになれば、という手紙とともに本書が送られてきた。一読して、蒙を拓かれた。

本書は十四人の書き手と三人の話者による、在野研究の実例集である。在野研究者とは大学に所属していない研究者のことであり、「在朝」、すなわちアカデミアの中心に活動の拠点を置く人間の対岸にいる存在だ。とはいえ、在野研究はアカデミアを脅かすのでもなければ、それを否定しようとするものでもない。互
いに補い合い、よりエキサイティングな知的活動を可能とする営為なのである。 先に、本書の後半に収録されている「新しいコミュニティと大学の再利用」の章の話をする。ここでは、研究の支援者として、研究のネットワーク構築に尽力する「思想の管理」人である酒井泰斗の具体的な活動事例や、文芸共和国の会という学術的な出会いの場を作り、学術的探求のためのオルタナティブな空間を創出している逆卷しとねの論考が収録されている。アカデミアが絶えず学者と一般市民の棲み分けをし続ける現状に不満もった、逆卷の実践に見られるように、彼らは、あらゆる立場の広義の研究者を護ろうと試みる。
そこには、学問を探求する者の孤独を孤立させない、という優しさ(と言って良いだろう)が煌ひかって見えるのだ。「絶えず始めなおす」という信念のもと、開かれた知的活動の空間をクリエイトすること。それはアカデミアが、自らの閉塞性を自認し、変更していくきっかけにもなるだろう。

すなわち、この書物は、研究というものを再起動させるために編まれているのだ。だから、研究というものに行き詰まりを感じていた私にとって、研究をアイドルを応援する営みに喩え、論文を嗜好品と見なして、論文を味わうことの趣おもむきぶか深さを説く、工藤郁子の文章は、研究者の門扉を叩いた頃の、「はじまり」を思い出させるのに十分な研究への情愛が込められていた。「変革期を迎えた日本の研究環境は厳しい。領域全体の持続性すら危うい分野もある。我々がよりよく在れるように、手元にあるカードを確認し、変化に応じ、戦略として自立し、戦術として群れよう。どうせここは元から地獄だ。だから、この地獄を大いに楽しもう」という工藤の言葉に、心が打ち震えない研究者が果たしているのだろうか。

とはいえ、在野研究者にも、さまざまな係累がある。研究資金だって、自分で捻出せねばならないし、支えてくれるパートナーも必要なのかもしれない。本書はその厳しさも決して誤魔化さずに書いている。だけれど、やはり、ここに収められた十七人の声を聞いたとき、曙光がさしてくるのを感じた。荒木は言う。
仕事に追われる在野研究者に明日はないかもしれない、だけど、あさってはある。未来は、開かれている。私も、もう少しだけ、頑張ってみるか。
この記事の中でご紹介した本
在野研究ビギナーズ 勝手にはじめる研究生活 /明石書店
在野研究ビギナーズ 勝手にはじめる研究生活 
著 者:荒木 優太
出版社:明石書店
以下のオンライン書店でご購入できます
「在野研究ビギナーズ 勝手にはじめる研究生活 」出版社のホームページはこちら
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