奴隷船の世界史 書評|布留川 正博(岩波書店)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年11月23日 / 新聞掲載日:2019年11月22日(第3316号)

奴隷船の世界史 書評
大西洋奴隷貿易史への現代的まなざし

奴隷船の世界史
著 者:布留川 正博
出版社:岩波書店
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 残念ながら、奴隷制は人間の歴史から消えたことはない。そのため、現在の私たちの生活はもとより、歴史や文化活動、あらゆる営みに奴隷制が関与してきたと考えざるをえない。歴史に「もしも」は禁物であろうが、「もし奴隷制がなければ、世界はどうなっていただろうか」とつい考えてしまう所以である。本書は
その長い奴隷制の歴史の中でも、大西洋奴隷貿易の時代から現代に至るまでに焦点をあて、グローバリゼーションが奴隷貿易と手を携えて拡大成長してきた経過を冷静に描く。世界史が「奴隷船」から読み解かれ、読者は「奴隷船」というキーワードにより、奴隷貿易の実態、その経済的効果、歴史事実、文化・文学へ
の影響など多方面への目配りと新資料の紹介に至るまでをつぶさに辿ることとなる。

本書では、まず「奴隷船」と「奴隷貿易」のイメージをかなり狭いものとして捉えていたことに気づかされる。「奴隷船」といえば、非人間的な扱いを受けて積荷にされた奴隷たち、その奴隷船を所持するオーナーや非人道的な船長というのがパターンとして頭に浮かぶ。本書冒頭に言及されるダニエル・デフォーの『ロビンソン・クルーソー』やスピルバーグ監督の『アミスタッド』など、映画や文学作品で奴隷制に関する事項が描かれる際もドラマチックな事件や残虐行為に照準が合わされ、印象的な場面は一般読者・聴衆の耳目に残りやすい。実際多くの奴隷制撤廃を求めた活動家たちもそうしたわかりやすい構図に訴えかけてきた。だが、奴隷貿易で重要な役割を果たしていたのは、奴隷とされた人々に直接関わり奴隷を鞭打つ人々ばかりではな
く、エージェントや奴隷ファクターなど通常は表には出ない役割を担う人々や奴隷の作り出す商品に関わる産業に携わる市民、奴隷制システムを支える裏方も含まれる。その中で、奴隷船では水夫といえども使い捨てにされ、積荷にされた人々とその積荷を監督する乗組員双方にとって奴隷船が巨大なブラック産業であったことがわかる。奴隷制は世界経済に忍び込み、容易に駆除できないほど複雑な根を下ろし、「偽装された奴隷制」は年季奉公人制で終わることなく、現代までも姿を変え新しい呼び名を得て未だ生きながらえている。

本書では、奴隷貿易に関する大量のデータを咀嚼する新データベースの構築過程にも触れつつ、奴隷船と奴隷貿易の実態を余すところなく描き、「奴隷船」のみならず、奴隷制廃止運動の歴史も丹念に紹介され、必須文献も網羅されている。筆者も専門家としてはもっと仔細な部分に立ち入りたかったであろうと推測されるが、新書という限られた紙幅で提供可能な最大限の情報と詳細かつ的確な解説がなされている。理解しやすい事物から始めて対象事項を俯瞰し、猛禽類が急降下して獲物を狙うかのように詳細な解説に引き込んでいく筆致が見事である。
この記事の中でご紹介した本
奴隷船の世界史/岩波書店
奴隷船の世界史
著 者:布留川 正博
出版社:岩波書店
以下のオンライン書店でご購入できます
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