三島由紀夫と最後に会った青年将校 書評|西村 繁樹(並木書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年11月30日 / 新聞掲載日:2019年11月29日(第3317号)

三島由紀夫と最後に会った青年将校 書評
類書に見られない貴重な資料
内部の者にしか分からない重要な証言を含む

三島由紀夫と最後に会った青年将校
著 者:西村 繁樹
出版社:並木書房
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 来年、オリンピックの終った後の十一月二五日は、三島由紀夫の壮絶な自決事件の五〇年忌にあたる。これから、文学方面からの、評論側面からの多くの論評が出されてくるであろう。この本は、当時の自衛隊関係者からの珍しい回想録である。

自衛隊関係者からの本ときけば、多くの読者は、一瞬、身構えるかもしれない。しかし、著者は非常に冷徹な人である。
例えば、あの市ヶ谷の自衛隊本部への乱入が落着した日の夕方、なんと、「まだ事件の余韻の冷めやらぬなか、三島が絶叫したバルコニーの前の広場で、バレーボールに興ずる隊員らの姿が見られた」というのである。

このような醒めた態度での当時の自衛隊内の反応に関する詳細な分析は、貴重な資料的価値を持つ。しかも、三島に関わりを持った当時の自衛隊幹部の動向についての報告などは、内部の者にしか分からない重要な証言まで含まれている。

それでいて、著者は当時の自衛官の中で、三島に最も信頼されていた「青年将校」の一人であった。著者たちが三島と会談を持った最後は、決起のほぼ一ヶ月前の一〇月十八日であったという。その時、三島は例の「楯の会」の内部分裂で悩んでいたらしい。しかし、 この時の著者たちと三島との会談は、意見の合わない点があり、物別れに終ってしまった そうである。つまり、 三島は決起に著者たちを誘うのは不可と判断したのである。この間の両者のやりとりは手に汗を握るような緊迫感に満ちている。

著者によると、三島が「楯の会」の内部分裂を解決する手段は、著者たちを巻き込むのではなく、少数の会員によって突出した行動を見せ、それによって会員にも自衛隊にも覚醒を促す以外にはないと判断したのだろう、と言う。結局、事件後、著者たちは警視庁の取調べを受け、一見落着となる。

決起に当って三島からの誘いはなかったが、著者は三島の主要な部分には賛意を呈している。この最後の部分になると、読者の反応は賛否に分かれると思う。かく言う私自身も、三島の「文化概念としての天皇(制)」は、対談者ごとにかなりブレているので、あの橋川文三の指摘(「文化防衛論」論争)にまつまでもなく、この言葉は細心の注意を払って使用すべきものだと思う。

だが、著者の指摘にまつまでもなく、日本国憲法第九条の「軍事力否定」と、第九八条の「武力行使を含む国際法の遵守」との間には矛盾がある。これまでも後者の遵守をどこまで実行すべきかで、国内、国際的議論をよんできた。この本は、そのことを考えるための重要な示唆を呈示してくれている。

とまれ、本書の特徴は、やはり、自衛隊内部の意見の相違、中高卒の一般隊員と大卒の幹部隊員との齟齬などをあからさまに語ってみせてくれている点で、類書に見られない貴重な資料になっている。
この記事の中でご紹介した本
三島由紀夫と最後に会った青年将校/並木書房
三島由紀夫と最後に会った青年将校
著 者:西村 繁樹
出版社:並木書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「三島由紀夫と最後に会った青年将校」出版社のホームページはこちら
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