AI時代の労働の哲学 書評|稲葉 振一郎(講談社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年11月30日 / 新聞掲載日:2019年11月29日(第3317号)

AI時代の労働の哲学 書評
AI「人間」に追われる自然人はどこで何をすることになるのか

AI時代の労働の哲学
著 者:稲葉 振一郎
出版社:講談社
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 人類史を振り返ると、当初人々が生存の糧を得たのは狩猟であった。狩猟は協同で行われ、獲物は平等に分配された。しかし、土着農耕の発展につれて恒常的な組織が形成され、その中で作業を指示するリーダーと指示される者とに分かれる。多くの収穫物を手にする者と割を食う者、すなわち経済的、社会的な格差が生じたのである。この間にも、生産性を高める手段、技法が編み出されていったが、その富は均霑されず、王や貴族など高位の者による収奪が一段と強まることとなった。

中でも一八世紀以降、科学技術が進歩し産業革命が進展する下で、多くの富と強力な生産技術を獲得した資本家層が出現し、その資本家に雇われる労働者との間での支配・被支配関係が明瞭となる。

本書はまず、近代的な経済社会が急速に展開する中で、スミス、ヘーゲル、マルクスなどの思想家が追究し深めてきた「労働」の概念を丹念に整理する。

マルクスによれば、近代資本主義経済では、設備などの生産手段を有する資本家が、労働者の提供する労働力を結合して生産する。その際、労働者は自発的な等価交換として労働力を資本家に売るが、その主導権は資本家が握る。能動性、創造性の発揮が求められる本来的な労働は精神労働(経営の管理、商品・技術の開発などの業務)として資本家が担う一方、被雇用労働者は人間の本来的な労働から「疎外」された肉体労働を強いられる。

そして著者は、このように位置づけられてきた被雇用労働者の肉体労働は、現在に至るまでの技術進歩、生産性の向上努力などによって労働節約的な機械、システムに置き換えられてきたとしたうえで、その流れの延長線上に今後どのような事態が招来されるのか、との問題意識を投げかける。

とりあえず著者は、経営管理的労働は自然人としての資本家から企業組織が前面に出て担うこととなったとしたうえで、機械化により一切の肉体労働が不要化される可能性にまでは踏み込まない。しかし、人工知能(AI)の発展によって、資本家・企業と労働者との関係、経営管理的労働者と従属的な労働者との関係といった「労働」を取り巻く環境は最終的にいかなる位相に到達するのであろうか、と悩む。

創造的思考、新技術開発のプロセスをも自律的に展開できるAIが誕生したら、それは自然人と同格の「人間」であり、そのような世界における「人間」同士の関係構築などについて、真剣な検討が求められるであろう。現時点ではAIのレベルはそこまでは届かないが、その急速な発展の可能性を見据えると、自然人と同じ創造性、感性を備えたAI「人間」の誕生はそう遠くはない。

それは、先賢の議論を踏まえてこれまで多くの人々が抱いてきた「労働」観、人間が働くことの価値を揺るがすばかりではなく、本来の「労働」の現場から自然人を駆逐することにもつながりかねない。AI「人間」に追われる自然人はどこで何をすることになるのか。経済社会の不透明感が強まる中で、読者は模索し続けなければならない。
この記事の中でご紹介した本
AI時代の労働の哲学/講談社
AI時代の労働の哲学
著 者:稲葉 振一郎
出版社:講談社
以下のオンライン書店でご購入できます
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