タネの未来 僕が15歳でタネの会社を起業したわけ 書評|小林 宙( 家の光協会 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年11月30日 / 新聞掲載日:2019年11月29日(第3317号)

タネの未来 僕が15歳でタネの会社を起業したわけ 書評
未曾有の転換点に直面する「タネ」
伝統野菜を残すことは、食文化の多様性を残すこと

タネの未来 僕が15歳でタネの会社を起業したわけ
著 者:小林 宙
出版社: 家の光協会
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 十五歳の少年が起業したと聞くと、天才少年が立ち上げたビジネス成功物語かと思うが、そうではないことは書名からも分かる。それにしても、なぜタネの会社を起業したのか? カラー口絵の学生服姿の著者は「タネを手放すことは未来を手放すこと」と語るが、タネはいま未曾有の転換点に直面しているのがこの本を読むと衝撃的に知らされる。

人類は長い歴史を経て、野生の植物を食用に適したよく育つ作物に作り上げてきた。野生植物のタネから何世代にもわたって品種改良し、安定して生育する固定種と言われるタネを作り出す。野生種に比べれば固定種は品質的に格段の相違はあるが、それでもばらつきは出てしまう。そこで、たとえば「味がよいトマト」と「耐病性のあるトマト」を掛け合わせて「味がよく、病気にも強いトマト」を作るというように、二つの固定種の長所を掛け合わせてF1品種というタネが作られる。

F1品種は、二つの特性を際立たせるだけではなく品質のばらつきも少ないから、日本ではイネや麦などの穀物を除き、野菜のタネの九割をF1品種が占めているという。F1品種が発売されることによって、野菜の品質は飛躍的に向上したが、このことによってタネは農家の手から殆ど離れてしまったのだ。F1品種は設備も費用も技術もある企業や公的機関が生産し、農家が自作するのは難しいから、毎年新しいタネをよそから買わなくてはならない。しかも、二〇一八年四月一日には、公益性を守るため米穀類のタネの開発と管理を国が負っていた種子法(主要農作物種子法)が廃止され、民間に開放されたために大企業によるタネの占有が進行する。今年の春公開されたドキュメント映画『シード~生命の糧~』では、薬品関連の企業が世界のタネの九〇パーセントを所有しているというからショッキングだ。

さらに、農家が自分で育てた作物からタネを採る自家採種について、種苗法を改正して制限強化しようとしているから、日本の各地で栽培されてきた伝統的な野菜のタネは消滅の危機に立たされているといってもよい。日本で十九世紀末に三〇〇〇品種ほどあったイネの品種は現在では四〇〇種になったというし、前出の映画『シード』では、かつて三万種あった食用食物のタネが、現在日常的に食用とされているもので一二〇種程度、またタネの九四パーセントが二〇世紀に消滅したと報じているという。

著者は米、大豆、小麦、乳製品、卵などのアレルギーで、母子ともに幼いころから否応なしに食品に関心を持たざるを得なかった。小学一年生の時に栽培した朝顔のタネを翌年撒いて育てたところ、うまく育たなかったことからタネに興味を抱き、花から野菜に関心が移り、各地の伝統野菜のタネ探しへと発展していく。こうして中学三年生の春休みに、父親に掛け合って伝統野菜のタネを流通させるための会社を立ち上げることになるのだ。起業をバックアップした両親と二人の妹の言葉が、コラムとして収められているが、厳しい食物アレルギーと折り合いながら十五歳にして起業するに至る家族愛も素晴らしい。

タネが無くなれば食文化は潰える。伝統野菜を残すことは、食文化の多様性を残すことだと日本中を回ってタネを集めそれを販売する。まだ初年度は赤字だというが、タネの未来にかける少年の意気込みから今日的に示唆されることが多々ある。
この記事の中でご紹介した本
タネの未来 僕が15歳でタネの会社を起業したわけ / 家の光協会
タネの未来 僕が15歳でタネの会社を起業したわけ
著 者:小林 宙
出版社: 家の光協会
以下のオンライン書店でご購入できます
「タネの未来 僕が15歳でタネの会社を起業したわけ 」出版社のホームページはこちら
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