水の恵みと生命文明 書評|安田 喜憲(第三文明社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年12月7日 / 新聞掲載日:2019年12月6日(第3318号)

水の恵みと生命文明 書評
生命文明こそが地球環境を救う
生命の源は水であり、生命文明の基本は稲作である

水の恵みと生命文明
著 者:安田 喜憲
出版社:第三文明社
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 この本は、欧米の畑作牧畜文明と日本の稲作漁撈文明を対比し、森とそこに源を持つ水が作り出す後者の文明が地球環境を救うという、一貫した思想で書かれている。この後者の文明が、本書の題名になっている生命文明である。その生命文明と対極にあるのが物質文明。物質文明と生命文明については、前者が男性原理であり、後者が女性原理である、前者が動物文明であり、後者が植物文明であるとも対比している。

物質文明に依存していると地球環境は滅びてしまう。逆に言うと、生命文明こそが地球環境を救うことができるのだと指摘。女性原理が男性原理にとってかわられ、物質文明に向かい武力で支配する時代になっていった。動物文明は森を奪うだけでなく、深刻な感染症をもたらした、と指摘する。

著者のまじめな人柄がにじみ出ていて、硬い専門書でない点でも親しみが持てる。一般の人たちを対象にした講演を基にしているため分かりやすく、語り口調が滑らかで読みやすい。そのやわらかな語りで、生命文明は水が基本であり、森里海の水の循環が、文明の基本になることの大切さが述べられている。いま世界規模で水害など自然災害が激増しており、そこには気候変動とともに森林伐採に伴う乱開発が大きく関係している。日本で見れば、森の消失が水を貯える機能を奪っているだけでなく、乱開発ががけ崩れの頻発をもたらしているといえる。著者の指摘の的確さを感じる。世界的に見れば、アマゾンの熱帯雨林の消失が止まらない。それは二酸化炭素の増加をもたらし、気候変動の原因になっているが、同時に水の循環を断ち切り、砂漠化を進行させている。著者の考え方に基づけば、これは死の文明といってもいいだろう。

生命の源は水であり、生命文明の基本は稲作である。お米は水がないと作れない。暮らしの中心には水がある。著者のこの思想は、宗教へと結びつく。最澄の草木国土悉皆成仏という考え方はキリスト教などにはない考え方であり、空海も海と森を基本にしていたと指摘する。また蛇を生命文明の象徴だと述べている。蛇は稲作と深く関係し、豊かな森が失われるといなくなる。脱皮は再生を象徴し、長い交尾は生命誕生の象徴だという。しめ縄は二匹の蛇が絡み合っている形だそうだが、各地に残る蛇の絵やレリーフが、それを示しているそうだ。モーゼの十戒に触れて、もしシナイ山が森におおわれていたら、まったく違う内容になっていただろうという指摘は、面白かった。また私自身、福井県年縞博物館に行ったことがあるが、それに著者がかかわっていたことを知り、興味深かった。

いまゲノム編集技術によって、バイオテクノロジーの応用が一挙に進みつつある。このような生命を操作する時代に対して、生命文明はどのような回答を持っているのだろうか。どう考えても、著者の言う物質文明の延長線上にあるような気がしてならないのだが。

科学者が文明や環境を語る時、多くの人が自分の狭い専門分野の延長線上で論理を展開するため、聞くに耐えないものが多い。本書には、その狭さがないが、さまざまな人への配慮が多い分、面白さが相殺されていて残念だ。
この記事の中でご紹介した本
水の恵みと生命文明/第三文明社
水の恵みと生命文明
著 者:安田 喜憲
出版社:第三文明社
「水の恵みと生命文明」は以下からご購入できます
「水の恵みと生命文明」出版社のホームページはこちら
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