藤井 茂著 一代の出版人 増田義一伝|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年12月7日 / 新聞掲載日:2019年12月6日(第3318号)

藤井 茂著
一代の出版人 増田義一伝

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 有数の老舗出版社のひとつ「実業之日本社」。創業まもなくから関わり、日本の出版史上に輝く雑誌「実業之日本」を創刊した、稀代の出版人増田義一の一代記である。令和の今、明治・大正・昭和と激動の時代を駆け抜けた男にジャーナリズムの萌芽を見ることができる。 少年から青年にかけてふつふつとたぎる上昇への思考と社会貢献への決意。導いてくれた数多くの師、道を切り開く時に出会った協力者たち。伝記には交わっていく多数の人々が登場するものではあるが、本書においてはまた格別その数の多さに驚かされる。

増田は新潟県戸狩村(現上越市板倉区)に明治二年に生まれた。貧しい農家の生活費を稼ぐため十二歳で授業生に就く(正式な教員は訓導といい、その代用のような役割)。人を教え、世の役に立ちたいと願っての第一歩であった。その後、父母をなくし郷里のしがらみも無くなった増田は東京専門学校(現早稲田大学)に入り訓導の資格を取る。しかし、教育の道だけではなくもっと広く人を育てるためにと出版に着手。こうして「実業之日本社」がスタートした。明治三十三年、増田は三十一歳であった。さらに出版がメディアとしての力をつけていくために、尊敬する大隈重信に導かれて政治とも繫がっていく。自ら政治家として活躍するようになるのは四十三歳のとき。増田は出版が社会に著しく影響を与えていく時代を生きたが、思えばなんとも羨ましい一生ではなかったか。

メディアの変化に伴い現代の出版のあり様は激変しているため、昇竜のごとき増田の成功話はそのまま参考にはなり難いが、本書は読む人の立場によってまたとない一冊となりそうだ。例えば出版の歴史に関心を持つ人には増田の歩いた道をたどることで、出版史の一面を知ることができ、日本において出版の果たした役割がいかに大きかったかということを再認させ、今の出版人に反省と刺激を与えることになろう。本書で増田の関わった人物を一人ひとり確認する作業を行うことで、増田の生きた時代の出版のあり様を、深く幅広く理解することができるはずである。また、社会の指導者たらんとする人にとっては増田の語った言葉や行動の中から、リーダーの取るべき道や判断の基準などを、現代に置き換えて吸収できる好著と言えるかもしれない。

増田は事業の心得を「自分よりも優れた人物を用いる」と語り、「真に大成する人は、自己以上の人物を部下に採用するものである」と。リーダーの資質を、このような増田の言葉から読み取っていくのも本書の魅力ではないか。気になる「実業」とは、明治初年頃から使われ始めた言葉であり、「実業之日本」という雑誌を通じて世の中を導きたい、その時代に農工商の実業に関わっていた人々の地位を高めたいという、増田の強い決意があったことも心に留めるべき歴史であろう。
この記事の中でご紹介した本
一代の出版人 増田義一伝/実業之日本社
一代の出版人 増田義一伝
著 者:藤井 茂
出版社:実業之日本社
「一代の出版人 増田義一伝」は以下からご購入できます
「一代の出版人 増田義一伝」出版社のホームページはこちら
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