独立記念日 書評|原田 マハ( PHP研究所)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
更新日:2019年12月7日 / 新聞掲載日:2019年12月6日(第3318号)

原田マハ著『独立記念日』

独立記念日
著 者:原田 マハ
出版社: PHP研究所
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独立記念日(原田 マハ) PHP研究所
独立記念日
原田 マハ
PHP研究所
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 初めて読んだ原田マハさんの作品は、一昨年出版された『たゆたえども沈まず』だった。フィンセント・ファン・ゴッホの画家人生を、弟であるテオと、日本人美術商の林忠正と、その部下である加納重吉の視点から描いた作品で、その中に書かれている言葉はどれも簡潔ながら、フィンセントとテオの愛憎半ばする複雑な関係を分かりやすく描写していて、私の心を強く揺さぶった。

そんな著者が、「独立記念日」という喜びの日を綴った作品があるらしい。「今度はどんな言葉に出会えるのだろうか」。そんな期待から手にとったのが、本書を書評するに至ったきっかけである。

本書は24の短編小説から成るが、その最大の魅力は、物語毎に24人もの人物が、代わる代わる主人公として描かれているところにある。主人公となった女性達が、各々の悩みや後悔、思い出から独立していく様子が著者の静かながらも喜びに満ちた文体で描かれている。たとえば、
「それでも私、越えたいんですあの川を」

そう言って地元を飛び出ようとする主人公に、川向こうの物件を紹介した不動産屋の店員八木橋は、次の話の主人公だ。その話では八木橋の過去が明らかになると共に、亡くした家族への後悔の念を断ち切り、新たな一歩を踏みだす。こんな風に不思議な繋がりが連鎖して、いくつもの出会いや別れ、思いが交差していく。

このような脇役の中から新たな主人公が選ばれる連鎖の中でも、主人公にならずに終わった人物は当然いる。しかし、この物語の不思議な連鎖は全ての登場人物、そして読者もまた、その人生の中では唯一の主人公であることを教えてくれる。「第9篇 メッセンジャー」の中に次の一文が書かれている。
「だから、私の独立を記念して、あの人に花束を贈ります」

この女性は時間を掛けて自分の揺れる心と向き合い、文字通り過去の自分から独立した。彼女は物語の主人公にはならなかったが、彼女の人生の主人公として生きる決意をしたのだ。好きだった元夫の影を追って生きるのではなく、彼への思いを断ち切り自分の足だけで立つことを選んだ。

努力や苦労がわかりやすい形で報われないこともある。しかし、この女性のように時間の経過に背中を押され、悲しみと向き合い乗り越えられるかもしれない、今、苦しいことがあっても、その日々はいずれ私たちを作り上げる糧になるかもしれないと、少しだけ信じる気持ちになれる。

このオムニバスは感情移入しやすいだけでなく、読者が抱いている葛藤を本書の一物語のように思い描くことで、自分の弱さを受け入れ、独立する手助けをしてくれる。「独立記念日」とは自分に優しく出来た日、いつもより少しだけ未来に希望を持てた日なのかもしれない。

表紙はフィンセント・ファン・ゴッホの「花咲くアーモンドの木の枝」。アーモンドの花言葉のひとつに「希望」がある。見落としてしまいそうなほど小さい、しかし、私たちの日常の中に必ずある希望のカケラがこの本には詰まっている。何かに喜び、笑い、悲しみ、苦しみ、抗う全ての人々に読んでもらいたい。この物語の言葉はどれもあたたかく、私たちがうっかり忘れそうになる大事なことを思い出させてくれる。きっとこの物語はあなたの心を優しく包んでくれるだろう。これから本書を読む人にも、彼女達のような良い独立記念日が訪れることを願う。
この記事の中でご紹介した本
独立記念日/ PHP研究所
独立記念日
著 者:原田 マハ
出版社: PHP研究所
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