関羽と霊異伝説 清朝期のユーラシア世界と帝国版図 書評|太田 出(名古屋大学出版会 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年12月7日 / 新聞掲載日:2019年12月6日(第3318号)

関羽と霊異伝説 清朝期のユーラシア世界と帝国版図 書評
荒ぶる戦神・美髯公関羽の記憶
近世ユーラシア世界の武神国教化の「かたち」を探る

関羽と霊異伝説 清朝期のユーラシア世界と帝国版図
著 者:太田 出
出版社:名古屋大学出版会
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 近世中国において、「忠義、武勇の化身」や「財神」、あるいは「城池守護の神」など、さまざまな姿で語り継がれた三国時代の英雄、関羽。本書は、少年時代から、『三国志演義』の美髯公関羽に魅了され続けた著者・太田出氏が、これまで世に問うた論考を中心に、一書としてまとめあげたものである。

近年、我が国における三国志研究は飛躍的な進展を遂げ、多くの成果が提出されている。とりわけ、人々が愛してやまない関羽に係わる事象については、その主戦場ともいえる文学の範囲において、まさに汗牛充棟の様相を呈している。

他方、著者も指摘しているように、民間宗教の神としての関羽の研究については、それほどの進歩を遂げているとは言い難い憾みがあった。ここ十数年における中国古代の戦いの神の代表的な研究として挙げられる、湯浅邦弘氏の大著『戦いの神 中国古代兵学の展開』では、先秦・秦漢時代を中心に、蚩尤や黄帝らの神々を取り上げ、その宗教的側面や資料性の確認などについて、精緻な検証が行われている。ただし、その探求の範囲は、基本的に、あくまで古代中国に限定されている。

つまり本書は、これまで極めて低調であった、近世中国における戦いの神である関羽の宗教的な記憶について、網羅的かつ詳細に分析を行った最初の本格的な研究であり、まさに渇望久しい、エポックメーキング的な存在といえるであろう。

さて、本書を紐解きながら、いま少し紹介を加えると、著者が解明を目指す課題のうち、最も力が割かれているのは、清朝、とりわけ乾隆帝が巨大な版図を獲得・維持する際に、いかに関羽信仰という観念を利用したかという点に尽きるであろう。

著者は、まず先行研究に検証を加えて、現状における関羽信仰を通じた「領域統合と民間信仰」に関する、解決すべき課題から説き起こし、関羽の神格化など、唐代から明代まで、清代以前の関羽信仰のかたちを概観する。そこから清朝と関羽「関聖帝君」の顕聖や関帝廟について検証を重ねる過程で、「関聖帝君に護持された〝われわれ〟」という意識を持つに至ったこと、すなわち、「「陽」の世界の清朝皇帝を「陰」の世界の関聖帝君がささえる」かたちが確立されたことを浮き彫りにするのである。

ここで問題となるのは、国家と宗教、王権と神の祭祀の関係であろう。

中国古代においては、神である天を祭ることにより、天子たる王者が森羅万象の吉凶禍福を祈っていた。古代中国世界の天子、すなわち漢民族の王者・皇帝は、荒ぶる「戦士の王」であると同時に、統治者としては儒教的な文化世界を守護する「司祭」である必要があった。これは、きわめて漢民族的、中国的な慣例であった。日本では中世から、朝廷・天皇と幕府・将軍によって、司祭と戦士の王の役割を分けることになったが、満州族王朝である清朝においては、やはり中国的な「かたち」をとった。すなわち、圧倒的多数の漢民族に対する統治者としては、儒教的な司祭ともいえる天子・皇帝概念を活用し、戦士の王の概念においては、乾隆帝の「十全老人」の称に代表される清朝皇帝の武威のほか、さらに武神としての関羽信仰にも依拠して、独特な〝われわれ〟という共同体的世界観・空間を創造したのである。

こうした王権と宗教の関係性について、本書の巻末では、中国のみならず、日本、朝鮮をも含めて検討を重ねているが、ここで示された視座は、近世の国家と宗教を理解する試金石としても括目に値するものであり、学際的にも多くの示唆を与え得るものである。今後は、関羽に関する民間信仰研究の側面だけでなく、政治や軍事に関わる領域においても、本書を軸として、大いに議論が行われることとなるであろう。
この記事の中でご紹介した本
関羽と霊異伝説 清朝期のユーラシア世界と帝国版図/名古屋大学出版会
関羽と霊異伝説 清朝期のユーラシア世界と帝国版図
著 者:太田 出
出版社:名古屋大学出版会
以下のオンライン書店でご購入できます
「関羽と霊異伝説 清朝期のユーラシア世界と帝国版図」出版社のホームページはこちら
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