赤坂憲雄×切通理作 対談 豊饒で深淵な思索の旅へ 『ナウシカ考 風の谷の黙示録』(岩波書店)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年12月6日 / 新聞掲載日:2019年12月6日(第3318号)

赤坂憲雄×切通理作 対談
豊饒で深淵な思索の旅へ
『ナウシカ考 風の谷の黙示録』(岩波書店)刊行を機に

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『岡本太郎の見た日本』、『性食考』などで話題となった民俗学者の赤坂憲雄氏が、『ナウシカ考 風の谷の黙示録』を上梓した。宮崎駿のマンガ『風の谷のナウシカ』(全七巻)と二十年以上にわたり向き合いつづけ、書下ろした本作は、原稿用紙約六百枚におよぶ本格評論。刊行を機に、『宮崎駿の〈世界〉』の著者でもある批評家の切通理作氏と、宮崎駿の思索と作品をめぐって対談をお願いした。            (編集部)
第1回
公式に囲い込まれたエンターテイメント

赤坂 憲雄氏
赤坂 
切通さんは著書『怪獣使いと少年』の「はじめに」で、幼女連続誘拐殺人事件の犯人である宮﨑勤が「おたく」であったことに触れ、次のように述べていますよね。「これからはテレビもマンガも文学も無い。すべてが等価なんだ。そういう時代になりつつあるんだとどこか素朴に信じていた僕は、自分の感覚が上の世代とも下の世代ともつながっていないことに愕然とした」。僕はこの一説がとても気になっていました。

『ナウシカ考』のあとがきでも書いたのですが、以前教えていた大学で、マンガ版『風の谷のナウシカ』を演習で取り上げたことがあります。完結したマンガ版『ナウシカ』について何か論じたいと考えていたのですけれど、どう論じるべきか分からず、試行錯誤の中で、学生たちと読んでみよう思いついたんですね。演習自体は盛り上がり、とても良かったのですが、中心になって支えてくれた男子学生が最後に呟くように言ったんです。「面白かったけれど、『風の谷のナウシカ』はマンガですよね。マンガをこんな風に読んだり、研究したりすることに、なんの意味があるのか分からない」。彼がぶつけてきた素直な戸惑いの言葉は、強烈な印象を残しています。

学生たちは僕らの世代とは違い、幼いころからアニメやマンガに囲まれて育っているはずです。それなのに、自分が関わっている研究テーマと同じようには認知していない、信じていないことに衝撃を受けたんです。
切通 
僕は大学教員ではないので、若い人たちとかかわるのはツイッターなどのSNSが中心です。そこで彼らが言っているのは、マンガやアニメは「エンターテイメント」であって、エンタメには「エンタメ用の語り口」を持っていなければならないということです。いわゆるハリウッド曲線的ドラマツルギーや、明解な語り口が「善」という感覚が蔓延している。

加えて、物語は基本的に「成長物語である」という感覚を持っています。五年くらい前まで、大学の講師をしていた頃、芥川賞を受賞した作品の感想を発表し合う授業をしました。そうすると、学生によってはどの物語もディテールをすべて抜かして、「主人公はこういう風に成長した」と言うんですね。

そのときに、 若い人たちの中には、物語を成長ものとして読む公式があるのだと気づきました。たとえば主人公がそれまでの弱さを克服すると、アイテムが増えて、能力的にも向上する。そんな、おもちゃ会社とタイアップした子ども番組のシリーズ構成のあり方が、良くも悪くも生育環境に大きな影響を及ぼしているのではないかと思ったりもします。若い人たちが考えるエンタメの範囲は、僕や赤坂さんが思うものよりも、ずっと狭い気がしますね。
赤坂 
エンターテイメントが、公式的な縛りの中に囲い込まれている感覚は僕にあります。別の授業で『となりのトトロ』を扱った際には、学生からこんな反論をされたことがあります。「この映画はエンタメとして楽しむものなのに、こねくり回して論じること自体が認められない」。いわば拒絶ですね。学生たちにとっては、エンターテイメント作品を論じること自体が、暴力的な介入と感じられるのかもしれません。
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この記事の中でご紹介した本
ナウシカ考 風の谷の黙示録/岩波書店
ナウシカ考 風の谷の黙示録
著 者:赤坂 憲雄
出版社:岩波書店
「ナウシカ考 風の谷の黙示録」は以下からご購入できます
「ナウシカ考 風の谷の黙示録」出版社のホームページはこちら
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