東電刑事裁判の判決の誤りを徹底批判する 海渡雄一弁護士(東電刑事裁判被害者代理人)インタビュー(聞き手=佐藤嘉幸)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年12月12日 / 新聞掲載日:2019年12月6日(第3318号)

東電刑事裁判の判決の誤りを徹底批判する
海渡雄一弁護士(東電刑事裁判被害者代理人)インタビュー(聞き手=佐藤嘉幸)

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東京地裁は九月一九日に、福島第一原発事故の刑事責任を問う「東電刑事裁判」に判決を下し、被告人の勝俣恒久元会長、武藤栄元副社長、武黒一郎元フェローに無罪を言い渡した。その判決内容について、東電刑事裁判の被害者代理人である海渡雄一弁護士にお話を伺った。聞き手は、『脱原発の哲学』(人文書院)の著者(田口卓臣氏との共著)でもある筑波大学准教授・佐藤嘉幸氏にお願いした。海渡氏は、来年一月、裁判の詳細を伝える『福島原発事故の責任を誰がとるのか』(彩流社)を刊行する。(編集部)
第1回
第一の論点——原発の安全性確保について

海渡雄一弁護士
佐藤  
最初に、判決要旨(以下で閲覧可能。https://shien-dan.org/summary-20190919/)を読んだ印象をお話しします。判決が示す論理は、最初から被告人三人を無罪にするという意図から構築されているかのように、様々な点で無理があると感じました。多くの方々が、大事故を起こした東京電力経営陣が無罪とされたことを、直観的におかしいと感じていると思います。今日はその点を、具体的な証拠を示しながら詳しくお話しいただければと思います。

まず判決に対する第一の疑問点についてお伺いします。判決要旨は、原発の運転に関して、「少なくとも本件地震発生前までの時点においては、絶対的安全性の確保までを前提とはしていなかった」(四二頁)としています。これは、原発事故が今後も繰り返される可能性を容認する論理ではないでしょうか(実際、原子力規制委員会は福島第一原発事故後も、「新規制基準への合致は一〇〇%の安全、リスクゼロを保証するものではない」と繰り返しています)。また、判決自体がこのような判断をすることによって、今後も原発を運転可能にすることを保証する意図が、さらには原発過酷事故を起こした企業を免責することによって、原発の運転について電力会社を委縮させないようにする意図があるのではないでしょうか。
海渡  
いま佐藤さんが読んで下さったのは、判決の結論の部分です。結論の中には次の一文が書かれています。「自然現象に起因する重大事故の可能性が一応の科学的根拠をもって示された以上、何よりも安全性確保を最優先し、事故発生の可能性がゼロないし限りなくゼロに近くなるように、必要な結果回避措置を直ちに講じるということも、社会の選択肢として考えられないわけではない」(四二頁)。これは三・一一前の政府の見解でもあり、一九九二年に最高裁が伊方原発訴訟の判決で述べたことでもあります。その意味では、これは元々政府の言明であったし、司法もそのレベルでの安全性を保ちなさいと言っていた。それを判決は全否定してみせたわけです。判決のこの論理が是認されると、原発は以前よりも危険で構わないことになります。原発に対する元々の規範があり、それを満たした安全性は保証されていなかったという社会的な現実があるのですが、その現実に合わせて規範のレベルまで下げようとしている。これが、判決の持つ最も恐ろしい点です。次なる重大事故を準備し、それを受忍しろと日本国民に押し付けていると言えるでしょう。
佐藤  
こうした判断を結論で示すことによって、大きな社会的な影響が出てきます。電力会社に対して原発を続けていいというメッセージにもなり、国の原発政策を容認するメッセージにもなります。原発の周辺に住んでいる住民や日本国民全体に対しても、様々な影響がある判決だと思います。
海渡  
判決の誤りの根源はどこか。検察官役の指定弁護士は裁判で、双葉病院で亡くなった四四人の方々の悲劇を中心に被害を捉えていたのですが、それをまったく正面から見ようとしなかったことです。実際に裁判では、当時患者の方々に付き添っておられた看護師さん、ケアマネージャー、医師の三人が出廷し、深刻な実状を話して下さいました。また、自衛官や消防士たちの鬼気迫るような調書も読み上げられた。そこで浮かび上がってきたのは、まさに放射能災害、放射線被害が起きている中で、避難作業が何度も中断され、亡くならずに済んだはずの命が大勢失われてしまった、ということです。その点が裁判では正確に立証されました。ご遺族からの「東電に殺された」という調書もたくさんありました。そうしたことが、この判決文にはまったく反映されていない。一行だけこう書いてあります。「長時間にわたる搬送及び待機を伴う避難を余儀なくされた結果、身体に過度の負担がかかり、三月一四日頃から二九日までの間に、搬送の過程又は搬送先において死亡した」(六頁)。その立証には丸二日間かけています。裁判官は、朝から晩まで避難の実態を聞いたはずなのに、それをこの一行で片付けてしまう。彼らは、福島第一原発事故によって引き起こされた被害と正確に向き合う心を持っていない。だからこそ、原発に要求される安全性についても、「絶対的な安全までは求められていなかった」などと平気で言ってしまえるのではないか。次に事故が起きたときは、「それはそれでしょうがないことでしょう」とでも言うのか。判決は、そう言ってやりたくなるぐらいの論理になっています。
佐藤  
裁判官は現場検証も拒否したわけですね。
海渡  
はい。現場検証は被害者代理人である我々も強く求めたし、指定弁護士も裁判所に検証の申請をしたのですが、何の理由も示さず、「必要性なし」の一言で蹴られました。民事損害賠償の裁判でも、福島の現地、原発を見に行ったり、帰還困難となっている区域を見て回ったりした裁判所がある。さらに、この裁判は、原発事故を裁く唯一の刑事事件であり、非常に注目されてもいる。当然現場検証をするべきでした。にもかかわらず、裁判所はその要求に一切取り合わなかった。この点からも、判決が誤った結論になることは予測できたことかもしれません。
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