東電刑事裁判の判決の誤りを徹底批判する 海渡雄一弁護士(東電刑事裁判被害者代理人)インタビュー(聞き手=佐藤嘉幸)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年12月12日 / 新聞掲載日:2019年12月6日(第3318号)

東電刑事裁判の判決の誤りを徹底批判する
海渡雄一弁護士(東電刑事裁判被害者代理人)インタビュー(聞き手=佐藤嘉幸)

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第2回
第二の論点——事故回避は運転停止によらなければ不可能だったのか

佐藤  
第二の論点に移ります。福島第一原発事故を回避するための必要な対策を、指定弁護士側は四つ挙げていました。「①津波が遡上するのを未然に防止する対策、②津波の遡上があったとしても、建屋内への浸水を防止する対策、③建屋内に津波が侵入しても、重要機器が設置されている部屋への侵入を防ぐ対策、④原子炉への注水や冷却のための代替機器を、津波による浸水のおそれがない高台に準備する対策。その上で、⑤これら全ての措置を講じるまでは運転停止措置を講じることである」(判決要旨、九頁)。判決は、これら四つの対策をすべて事故前に完了することは証明されておらず、問題は結局、二〇一一年三月までに運転停止措置を講じられたかどうかという点に尽きる、と述べています。非常におかしな論理です。四つすべてを完了できなかったとしても、簡単に実行できた②、③、④だけでも対策が講じられていれば、事故は起きなかった可能性は高い。しかし、そうしたことは、判決において議論の対象にされていません。判決は、運転停止だけに問題を絞ることで有罪認定のハードルを上げ、それによって無罪を導く、という論理構成になっているのではないでしょうか。判決要旨にはこうあります。「本件地震発生前、本件発電所は、法令に基づく運転停止命令を受けておらず、かつ、事故も発生していないのであって、そのような状況において、前記の多重的な封策が完了するまでの相当な期間にわたって原子炉の運転を停止することとなれば、被告人らの一存で容易に指示、実行できるようなものでは到底なく、東京電力の社内はもとより、社外の関係各機関に対して。本件発電所の原子炉を停止することの必要性、合理性について具体的な根拠を示して説明し、その理解、了承を得ることが必須であつたものと認められ、そのような意味で、手続的に相当な負担を伴うものであったとみざるを得ない」(三三頁)。事故前に四つの対策すべてを講じることは不可能であり、さらに原発の運転停止も社会的に大きな影響があり困難であった、従って、被告人の責任を問うことはできない、というのが判決の論理です。
海渡  
四つの対策についてもう少しわかりやすく説明します。具体的には、①防潮壁を設置しておくこと、②建屋の大物搬入口の水密化工事をすること、③非常用電源や主要機器が設置されている部屋を水密化すること、④代替電源や注水装置などを高台に移しておくこと、そして、この四つの対策を取るまでは原発を停止しておくべきである、ということです。しかし、四つの対策すべてを二〇一一年三月一一日までに完了できることは立証されていない。簡単に言えば、一番時間がかかると思われているのが防潮壁の設置です。それ以外の対策であれば、数カ月もあればできる。防潮壁を設置する期間についても、裁判で大きな問題になりました。政府事故調の報告書を見ると、「四年かかる」と書いてあります。そこから考えると、対策の検討が始まったのが二〇〇八年ですから、事故には間に合わなかったと思われてきました。しかし、沖合に防波堤を築く計画を立てた東電の堀内友雅さんが証言していますが、「沖合に防波堤を築くとすると四年かかる」ということなのです。それが政府事故調の「防潮壁完成まで四年」の論理のベースになっている。沖合に防波堤を作るのと、原発の敷地内に防潮壁を一〇メートルの高さで築くのとでは、行政の手続も工事の難易度もまったく違います。工期の日数に関しては、的確な証拠がないことはないのです。福島第一原発事故後、浜岡原発で、砂浜に高さ二二メートルの防潮壁を築きました。これがおおよそ一年で完成している。福島第一原発の場合も、一〇メートル盤の上に一〇メートルの防潮壁だから、一年ぐらいあればできたと思われます。
もう一つ重要なことは、大規模な津波対策を始めたら地元から原子炉の停止を求められるに違いない、という証拠があることです。この原発は津波に対する防御ができていないと天下に知らせることになるわけですから、当然のことです。福島県や地元の双葉町、大熊町は、原発と協定を結んでいて、危険性があると判断された場合は原子炉を止めるよう要望する権限があった。以上のことから明らかになるのは、次のことです。四つのうちの三つは確実に二〇一一年の三月までに完了できたし、防潮壁にしても急いでやれば短い期間でもできた。その間原子炉を止めなければならないことを考えれば、極力突貫工事での完成が目指されたとも言えます。ですから、二〇〇八年に対策工事を始めていれば事故は避けられた、原発の運転停止以外に有効な対策はなかった、というのは事実とは異なる。にもかかわらず、裁判所は停止だけが有効だったと言っている。これに対しては、有力な反証があります。東電とまったく同じ時期に、日本原電の東海第二原発が津波対策をやっている。むしろ東電よりも遅れ気味にスタートし、東電と同じ東電設計に津波の高さを計算してもらって、それに基づいて水密化や防潮壁に替わる盛り土の対策をしている[図1]。こちらは二〇〇九年ぐらいにほぼ終わっている。一番長くかかったものでも、二〇一〇年の春には終了しています。これは、四つの対策が間に合った可能性があることを立証するために指定弁護士側が提出した証拠ですが、これについても判決は的確な判断を示していない。
図1

さらにもう一つ重要なのは、東電役員の弁護側の主張です。推本(政府地震調査研究推進本部)の長期評価に基づいて対策を取ったとしても、津波高の計算では、敷地の南側と北側と真ん中の三ヵ所で一〇メートル盤を越えることになるだろうから、その三ヵ所にだけ防潮壁を築いたはずである。しかし、実際の津波は敷地東側の全面にわたって越流してきているので、事故を防ぐことはできなかった、という主張です。そんな馬鹿な話がありますか。防潮壁を櫛の歯みたいに築くのか。それは「工学的にもありえない対策」だと、東電設計の担当者や東電の広報部長も言っていました。逆に弁護側の言うようなことを証言した東電の社員もいますが、事故前にそのような対策が検討されたことを示す証拠は何もありません。ただ、そのような櫛の歯防潮壁が有効だったかどうかを弁護側は裁判の最重要論点だと考え、三時間にわたった弁論のうち一時間程度を使って説明しました。誰が考えても、東電側の論理は荒唐無稽です。津波の危険のある施設について、津波高の計算に基づいて、櫛の歯みたいな防潮壁を作っているところは日本中探してもどこにもない。また、東電にはそのような櫛の歯防潮壁の設計図は存在しません。反対に、櫛の歯でない防潮壁の立体図が残っている[図2]。しかし判決は、この論点を見事にスルーしています。その点について被告人たちは、説得力を持った論証ができていない。だから、それより手前の部分、つまり、間に合った対策は原子炉の停止しかない、停止を義務付ける緊急性、必要性が推本の長期評価にあったかどうか、という点だけに判断事項を限定してしまった。最も主要な論争点として議論されたところが完全にスルーされ、肩すかしにあったような判決です。論点ずらしがなされているということです。
図2
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