東電刑事裁判の判決の誤りを徹底批判する 海渡雄一弁護士(東電刑事裁判被害者代理人)インタビュー(聞き手=佐藤嘉幸)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年12月12日 / 新聞掲載日:2019年12月6日(第3318号)

東電刑事裁判の判決の誤りを徹底批判する
海渡雄一弁護士(東電刑事裁判被害者代理人)インタビュー(聞き手=佐藤嘉幸)

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第5回
第五の論点——津波対策工事を行わないための東電の様々な工作について

佐藤  
第五の論点についてお伺いします。東京電力は、津波対策工事を行わないために、規制当局、学者、他の電力会社など各方面に対して様々な工作を行っていました。これは判決が奇妙にも一切言及していない点ですが、詳しくお聞かせいただけないでしょうか。
海渡  
東京電力は、津波高を一五・七メートルと予測をしました。しかし、そのことを規制当局にはひた隠しにした。また関係する学者には、長期評価を津波対策に取り入れないことを了承してもらうよう根回しもしていたが、研究者にも津波高は知らせなかった。さらに東北電力には、貞観津波に基づく津波想定を行っていることを公表しないよう圧力をかけ、日本原電には長期評価に基づいた津波想定を行っていることを外部に公表しないよう圧力をかけていた。これらはすべて明らかになっている事実です。にもかかわらず、判決ではその点が一切認定されていない。非常に問題です。判決自体も問題ですが、東電が様々な工作、言葉を変えれば圧力を加えて津波対策をしないで済ませようとした。そのことが問題なのです。

もう少し判決の問題点について説明します。津波対策をしないために地震学者に根回しする際には、推本の長期評価に基づいた対策をしないとは言わない。土木学会に検討を委ねているので、結果を待って、必要とされた対策は確実に実施しますと言う。推本の長期評価を一切取り入れないと言ったら、さすがにみんな怒ったと思います。しかし、そうではない。すごくずる賢いやり方で対策を遅らせた。あるいは、日本原電が津波対策を行っていることについても、元々、日本原電はプレス発表する予定だった。そういう証拠も残っている。ところが、なぜかプレス発表はなされなかった。その点については、判決が言い渡された九月一九日のNHK『クローズアップ現代』で、東海第二原発で働いていた元社員が証言しています(以下を参照。https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4330/)。どうして津波対策に関する経過を発表できなかったのか。電力会社の横並び意識があるからであり、東電に気兼ねした、とはっきりと語っているのです。けれども、判決はどう言っているか。国や地方自治体、他の電力会社、専門家から、原子炉を止めなさいとは一切言われていない。だから、東電が何の津波対策を講じなかったとしても被告人らには過失はない。そんな論理になっている。東電は原子力ムラのキングなのです。そして、国も他の自治体も事実を知らされていない。にもかかわらず、「今すぐ津波対策をせよ、そうしなければ原子炉を止めろ」などと、東電に言える人がいるわけがない。原子力の世界のことを多少でも知っている人には、自明のことです。この判決の理屈は酷過ぎます。何も情報を出さずに、一五・七メートルの津波が来ることもひた隠しにした人たちが、他所から「原子炉を止めろ」と言われなかったから過失がなくなる。恐るべき論理構築です。
そもそも、原発の安全性に一次的に責任を負うべきであるのは、国でも自治体でもなく、電力会社です。結局は、東京電力の情報隠蔽、そして役所や他の電力会社をだまらせるための工作が、すべて功を奏した。さらに判決は、そうした工作の経過自体を目して、東電は慎重に津波対策の要否を検討していたとまで認定している。頭がクラクラするような倒錯した論理となっているのです。
佐藤  
東京電力が規制当局に津波計算を命じられたときのこともお聞かせいただけますか。
海渡  
それは二〇〇二年八月のことです。推本の長期評価が出た直後に、原子力安全・保安院が東電に対して、福島沖で津波地震が発生したらどうなるかを計算するよう要請した。それに対して東電の高尾誠土木調査グループ津波担当は「確率論で検討する」からと「四〇分くらい抵抗」して、その場を逃れたとされています。結局計算をしたのは二〇〇八年になってからで、六年後のことです。二〇〇八年以降の経過を見ていると、高尾氏は津波対策をきちんと実施しようとしていた方に属しているのですが、二〇〇二年の段階では、かなり質の悪い対応をしていた人だったわけです。
その後二〇〇七年一二月、東電は日本原電との打ち合わせで次のような発言をしています。「これまで推本は確率論で議論するということで説明してきているが、この扱いをどうするか非常に悩ましい。確率論では評価するのは実質評価しないこと」だ、と。つまり五年間ぐらい、何もしないでやりすごしてきたことをこのやり取りで自白しているわけです。ただ、この辺りのことを上層部が知っていたという証拠はまったくない。恐らく、その点について上層部が知ったのは、二〇〇八年に東電設計に計算が依頼されてからのことだろうと思います。二〇〇二年から二〇〇七年までは、東電の土木調査グループは真実を知っていたが、それを上層部にすら隠していたと言えるかもしれません。しかし、二〇〇八年二月の段階で、上層部にまで情報が共有されたことは間違いない。その時点から対策を取れば、そして対策完成まで原子炉を停止させておけば、確実に事故は防げていた。仮に防潮壁が完成前でも、水密化や電源移設がなされていて、防潮壁がかなりの部分が出来上がっていたとすれば、運転を停止していなくても、事故は避けられたはずです。浜岡原発のスピード工事の実態を見ていると、また地元自治体からの「早く作れ」という要望も含めて考えると、仮に停止させなくても、防潮壁も間に合ったのではないかと思っています。
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