ようかん 書評|虎屋文庫(新潮社 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年12月14日 / 新聞掲載日:2019年12月13日(第3319号)

ようかん 書評
『ようかん』just for you
不寛容な時代の空気孔としてのようかん

ようかん
著 者:虎屋文庫
出版社:新潮社
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ようかん(虎屋文庫)新潮社
ようかん
虎屋文庫
新潮社
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 表紙の背景に浮かぶ、真冬の吐息のような四文字のひらがな、「ようかん」……。この四文字を目にしているだけで、不寛容時代の寛容にふわりと包まれ、心身がほぐされていく気がする。ようかんは並べ換えるとかんようだから、ようかんは不寛容時代の寛容に決まっているのだけれど……。

ようかんは、ふんわり浮かびながら告白を囁いてくる。ようかんはわたしを誘う。わたしの目と指は、その誘惑に逆らうことができない……。

ページを開くと、ようかんはわたしにだけこっそり秘密を教えてくれる。なぜ羊羹という漢字なのか。いつからようかんはこの国にあったのか。小豆からようかんを作っていて父から「五〇〇万出すから店を出さないか」と出資提案を受けてしまったことのあるわたしは、小豆の記述にも全身が釘付けだ。

ラーメンで一冊、カレーで一冊、本は出来るのだろうし実在するのだろうし読者もいるのだろう。けれど菓子で一冊、しかもそれについて触れることがそのままその国の歴史と風俗と国民の気分の記述になる、そんな菓子は、ようかん以外にあり得ないという気になってくる。

「虎屋のようかん」というフレーズは、ものごころついた頃には既に脳内にインプットされていた。だからわたしは、その後ようかんに出会うたびに製造会社を確かめ、虎屋でなければ失望してきた。経済、というものを考えざるを得ない年齢になってからは、「エルメス、虎屋、資生堂」と唱えながら(一人で)行進していた時期が(本当に)あったくらい虎屋の大ファンであった。ブランドが常に魅力を保つには、伝統を維持しつつ身を切るような革新が必要なのだろう。そういう裏事情をみじんも漏らさず常に美しい(つまり強靭かつ繊細)。そんなブランドがある国にいることに、わたしは誇りを感ずる。

「虎屋文庫」というものが存在することを、今回初めて知った。そのホームページには「第4回 日本一! ようかん祭り開催」とある。「ようかん祭り」しかも第4回……。しかも羊羹王国! 小城市……。佐賀県のゆめぷらっと(!)小城では羊羹フォンデュ(!)が楽しめる……。羊羹もフォンデュもファンタジーなのだから、羊羹フォンデュはダブルファンタジーだ。

日本て、広いんだな……。わたしはじんわり感動してくる。現実の真っ只中にファンタジーはあるんだな、いや、現実の真っ只中こそがファンタジーなのか! わたしは急に羊羹王国に旅立つ準備をし始めそうになる。

こってり、こっくり、まったりしていながら、食後口中はさっぱりして、今度は頭の中がこってり、こっくり、まったりしてくる。しかし間もなく、頭の中からも、余韻はさっぱり消える。人間関係もそうありたい、そんな理想の関係を、ようかんは食者と結び築く。

ようかんは心のベッドだ!ようかんは月下の湧水だ……と、恋のごとくようかんに陶酔してゆく。そんなうっとりにいくらでも浸っていられる、ワクワク美しいカラー図版一六〇ページだ。
この記事の中でご紹介した本
ようかん/新潮社
ようかん
著 者:虎屋文庫
出版社:新潮社
「ようかん」は以下からご購入できます
「ようかん」出版社のホームページはこちら
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