かたつむりがやってくる たまちゃんのおつかい便 書評|森沢 明夫(実業之日本社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
更新日:2019年12月14日 / 新聞掲載日:2019年12月13日(第3319号)

森沢明夫著『かたつむりがやってくる たまちゃんのおつかい便』

かたつむりがやってくる たまちゃんのおつかい便
著 者:森沢 明夫
出版社:実業之日本社
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 この作品が生まれるきっかけは、著者が20代の頃に田舎で放浪していた体験と、数年前から気になっていた「買い物弱者」という社会問題であるという。あるとき、東真央さんという方が三重県の紀北町で「移動販売」を起業し、集落の買い物弱者を救っているというニュースを見て、本人に会いに行き、この題材を小説にしてみたら良いのではと思い執筆した。

主人公である「たまちゃん」こと葉山珠美はなんとなく大学に行き、ゆるく楽しく生活していたが、地に足をつけて生きている両親の背中を見て育ったため、どこかに、命の無駄使いをしているのではないかという不安があった。

そもそもたまちゃんが「おつかい便」を思い付くきっかけは、テレビ番組で「買い物弱者」という言葉を知ったことだ。ふるさとで暮らす祖母、大好きな静子ばあちゃんを過疎地の一人暮らしの老人と重ね、「このままではまずい、どうしたらいいんだろう」という焦りから、無謀ながら大学を中退し、起業を決めて、ふるさとに戻ることにする。

しかし大学の友人たちが催してくれたお別れパーティーで、おつかい便について話してみるのだが、期待するような前向きな答えは返って来ず、過疎地で起業するリスクや将来性などの現実的な意見に、自分の考えと行動が軽率だったのでは…とおののくたまちゃん。そんな時、静子ばあちゃんが電話口で言った、「人に期待する前に、まずは自分に期待すること。で、その期待に応えられるよう、自分なりに頑張ってみること。人にするのは期待じゃなくて、感謝だけでいいんだよ」という言葉が、気持を前に向わせてくれる。

おつかい便を、仕事として軌道に乗せていく厳しさも痛感させられる一方で、周りの人々の温かさに助けられていく。この物語で印象的なのは静子ばあちゃんだけではない。父の再婚相手である「義母」のシャーリーンというフィリピン人の女性だ。彼女は陽気で朗らかな人柄だが、日本で育ったたまちゃんにはどうも違和感があり、言いたい事も言えず仕舞い。小学生の頃にお母さんが事故で亡くなったこともあり、シャーリーンを「お母さん」とは思えない。たまちゃんとお母さんとお父さんは血が繋がっているけれど、シャーリーンは違うと。

話の終わりの方では、母が亡くなった本当の理由を知ってしまい、さらに大好きな静子ばあちゃんを失って喪失感に陥る。だが、たまちゃんとシャーリーンが、互いの本音をぶつけ合い、誤解が解かれ、少しずつ本当の家族になっていく。家族だからこそぶつかり合うことも大切であり、血の繋がりがあってもなくても互いの絆が深ければ家族は家族なのだ。

たまちゃんが帰ってくることによって色々な人達の人生の歯車が動き出している。自分自身、読んだ後、たまちゃんたちの頑張りや周りの人々の温かい触れ合いを感じ、日々のストレスや将来の不安で鬱々としていた自分の止まっていた歯車が少しずつ動き始めるようだった。本書は、そんな勇気をくれる一作である。
この記事の中でご紹介した本
かたつむりがやってくる たまちゃんのおつかい便/実業之日本社
かたつむりがやってくる たまちゃんのおつかい便
著 者:森沢 明夫
出版社:実業之日本社
「かたつむりがやってくる たまちゃんのおつかい便」は以下からご購入できます
「かたつむりがやってくる たまちゃんのおつかい便」出版社のホームページはこちら
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