連載 『ベロニカ・フォスのあこがれ』とファスビンダーの映画観   ジャン・ドゥーシェ氏に聞く 134|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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ジャン・ドゥーシェ氏に聞く「映画/映画作家/映画批評」
更新日:2019年12月16日 / 新聞掲載日:2019年12月13日(第3319号)

連載 『ベロニカ・フォスのあこがれ』とファスビンダーの映画観   ジャン・ドゥーシェ氏に聞く 134

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右端にドゥーシェ(オタール・イオセリアーニ監督『ここに幸あり』より)

JD 
 よく知られているように、ファスビンダーは女性も男性も好きな人でした。女性よりも男性の方が好きだったように思います。それもあって彼の作品における鍵となる人物は、男性が担うことが多かったのです。

それでもファスビンダーは、男性に対しても女性に対しても、同じように苦しみを描いています。『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』においては、女性たちの苦しみが問題となります。一方で『ケレル』や『自由の代償』では、男性たちの苦しみが描かれます。ファスビンダー個人の関心が、様々な人間関係のあり方にあったように、彼の映画は男性/女性という枠に囚われない人間のあり方、その苦しみを描いているのです。

HK 『ベロニカ・フォスのあこがれ』は、ドゥーシェさんの分析によると、女優の苦悩とは別の主題がありますよね。戦後ドイツにおけるコカコーラや黒人俳優の描写におけるアメリカとドイツの関係、加えて画面構成や演出法を通じてファスビンダーの映画哲学が見えてくる。
JD 
 『ベロニカ・フォスのあこがれ』は、私の最も好きなファスビンダーの作品です。その作品においてファスビンダーは、映画特有の表現によって、つまり映画という芸術を通じて、映画を考察することになったのです。『ベロニカ・フォス』の最初の画面は、スクリーンとそれを見つめる観客たちの後ろ姿ではじまります。映画というものは、リュミーエル兄弟の上映から暗がりで、観客たちがスクリーンを見つめることで成り立っていました。最初の画面から、すぐさま映画を語る作品であることが仄めかされるのです。しかしながら、続く画面において、スクリーンを見つめる女性が映し出されます。背後にいる男と対照的に、その女性は映画を見るのを拒みます。

HK その背後にいる男は、ファスビンダー本人ですね。
JD 
 そうです。映画の最初の観客とは、必然的に、映画を作ることになる人、つまり映画作家です。彼は目を背けてはいけません。誰よりも映画をよく見なければいけないのです。そのようなショットの次に、スクリーン上の映像が示されます。スクリーン上にいる女性は、見つめることを拒んだ女性に他ならないのです。そのシークエンスから分かるのは、『べロニカ・フォス』が、物語を通じて、映画と過去の栄光にすがる女優の姿を語る作品であるということです。

HK 『サンセット大通り』のような形ですね。
JD 
 確かにそのような側面もありますが、ビリー・ワイルダーの取り扱い方とは異なります。ワイルダーは、ハリウッドのスタジオのシステムの中で、そのような映画を作っています。一方で、ファスビンダーの作った時代において、スタジオのような演出法で映画を作ることはすでに虚構でしかなかった。

HK ドゥーシェさんによると、いろいろな引用が見られるのですよね。
JD 
 その通りです。女優が雨の中で男に出会い、路面電車に乗るシーンではムルナウの影響が見られます。それ以外にも、ドイツ表現主義の影響やダグラス・サークの影響を見ることができます。しかしながら、そのようなハリウッドの映画は、映画というものが何であるかを示すために用いられているのです。

HK ハリウッドはかつて「夢の工場」と呼ばれていましたね。アーヴィン・タルバーグ、ダリル・ザナック、アーサー・フリードの時代です。
JD 
 そのような時代におけるハリウッドだけではなく、スタジオが作り出された頃から、アメリカ映画は世界中にアメリカの哲学を輸出していたのです。アメリカ映画の哲学とは「ハッピーエンド」に他なりません。しかしながら、ファスビンダーは、ハッピーエンドとは異なる映画を作っています。彼は、アメリカ映画というよりも、ドイツのスタジオから大きな影響を受けています。つまり、ムルナウの映画です。結局のところ、ファスビンダーに強い印象を与えたハリウッドの映画監督とは、ドイツ出身の映画監督たちに他ならないのです。

   〈次号につづく〉
(聞き手=久保宏樹/写真提供=シネマテークブルゴーニュ)

*『ここに幸あり』では、ドゥーシェは棺桶を探しに登場する。その左にピエール・エテックスの姿も見える。
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