カート・ヴォネガット トラウマの詩学 (アメリカ文学との邂逅) 書評|諏訪部 浩一(三修社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年12月21日 / 新聞掲載日:2019年12月20日(第3320号)

カート・ヴォネガット トラウマの詩学 (アメリカ文学との邂逅) 書評
〈文学のおくりもの〉
力ある人々の声で溢れた一年、 価値ある作家論シリーズ、個性的な翻訳作品

カート・ヴォネガット トラウマの詩学 (アメリカ文学との邂逅)
著 者:諏訪部 浩一
出版社:三修社
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こんなにも文学は大切なものだと、誰か聡明で力のある人がもっと朗々とした声で語ってくれないものかと日ごろから砂を噛み噛み思うのだが、この原稿を書いてみると実は今年もそのような人たちで溢れていることに気付かされる。狐につままれた感は消えないものの、今は自分に割り当てられた領域でのいわば〈文学のおくりもの〉のごく一部を紹介しよう。最初は三修社から刊行が始まった「アメリカ文学との邂逅」シリーズである。シリーズ監修者の諏訪部浩一はあるインタヴューにおいて、一方で小説の翻訳が盛んであり他方ではテーマに基づく論集という形式の文学研究が主流でありながら、そのあいだをつなぐ「一般の読者に向けて解説していくという作家論シリーズがなくなってしまった」現状を批判的に捉え、後世にも残る価値のある「一冊の重厚な作家論」を送り出したいと考えたと述べている。そして最初に上梓されたのが監修者当人の手になる『カート・ヴォネガット トラウマの詩学』である。ヴォネガットの長編作品を読み比べた諏訪部は「特に後期作品において、罪意識を持つ人物が過剰なまでに導入される」ことに気付く。そこから「罪意識に苛まれる人物が一四冊の小説のほとんどに登場する」ことの意味を、生きることと創作活動とがどのように連動しているのかという問題意識から丹念に探り、解き明かしていく。シリーズ第二作の坂根隆広『チャールズ・ブコウスキー スタイルとしての無防備』も言葉の選択が確かで論じる視野が広く、ブコウスキーという人物の幅と厚みが違って見えるほどである。序論冒頭の文章に吸い込まれ、そのまま読み進んでしまった。

他の作家論では山辺省太『フラナリー・オコナーの受動性と暴力 文学と神学の狭間で』(彩流社)も目に付いた。同書を評した大串尚代はカトリック作家としてのオコナーの特異性を確認した上で、「暴力と倫理、グロテスクと恩寵、隠匿と開示、暴力を通じた非暴力など」の相反する様相を持つ出来事が「オコナーの中で神の啓示として矛盾することなく(むしろ必要不可欠な要因として)描かれている」ことを明らかにしたのが山辺の独自性であると指摘した。単独の作家論ではないものの、スケールの大きな視座を提示すると同時に見過ごされてきた「抵抗する者たち」の視点からの物語と歴史を丁寧に拾い上げて論じる白川恵子『抵抗者の物語 初期アメリカの国家形成と犯罪者的無意識』(小鳥遊書房)も印象深い。

テーマから掘り下げていく研究書では伊藤詔子・一谷智子・松永京子編著『トランスパシフィック・エコクリティシズム 物語る海、響き合う言葉』(彩流社)と吉川朗子・川津雅江編著『トランスアトランティック・エコロジー ロマン主義を語り直す』(同)は、二つの大洋をめぐる地球規模の想像力を基盤にして環境と自然に対する人間と文明のあり方と語り方について再考を迫る重要な二冊である。また、歴史の再検証を綿密に行っている論集としては、モダニズムと文学の関連に焦点を当てた藤野巧一編著『アメリカン・モダニズムと大衆文学』(金星堂)、そして「精読」という行為の歴史的文脈を踏まえて日米の「リテラシー」や文学教育をも含めて論じる吉田恭子・竹井智子編著『精読という迷宮 アメリカ文学のメタリーディング』(松籟社)らがあり、多くを考えさせられる。

翻訳では、ウィリアム・ギャディス『JR』(木原善彦訳、国書刊行会)をはじめとしてF・スコット・フィッツジェラルド『美しく呪われた人たち』(上岡伸雄訳、作品社)、デニス・ジョンソン『海の乙女の惜しみなさ』(藤井光訳、白水社)、ドン・デリーロ『ポイント・オメガ』(都甲幸治訳、水声社)、ルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集』(岸本佐知子訳、講談社)など多くの個性的な作品が上梓された。伝記では、上杉忍『ハリエット・タブマン 「モーゼ」と呼ばれた黒人女性』(新曜社)が脱走奴隷を救う「地下鉄道」活動を牽引した女性の生涯を丁寧に辿り、また、ピュリッツァー賞受賞のマニング・マラブル『マルコムX 伝説を超えた生涯(上・下)』(秋元由紀訳、白水社)も鮮烈な装幀をまとって世に出た。

今年八月の逝去をうけて『ユリイカ』一〇月号がトニ・モリスン特集を組んだ。どの寄稿記事もそれぞれに興味深いが、冒頭の荒このみと西加奈子の対談は真摯な声を再現している。豊富な知識に裏付けられた荒の明快な解説もさることながら、西のひたむきなまでに湧き出てくる言葉は〈モリスンのおくりもの〉を実直に伝えていて、打ち寄せるように心に響く。
この記事の中でご紹介した本
カート・ヴォネガット トラウマの詩学 (アメリカ文学との邂逅) /三修社
カート・ヴォネガット トラウマの詩学 (アメリカ文学との邂逅)
著 者:諏訪部 浩一
出版社:三修社
「カート・ヴォネガット トラウマの詩学 (アメリカ文学との邂逅) 」は以下からご購入できます
フラナリー・オコナーの受動性と暴力 文学と神学の狭間で/彩流社
フラナリー・オコナーの受動性と暴力 文学と神学の狭間で
著 者:山辺 省太
出版社:彩流社
「フラナリー・オコナーの受動性と暴力 文学と神学の狭間で」は以下からご購入できます
抗者の物語 初期アメリカの国家形成と犯罪者的無意識/小鳥遊書房
抗者の物語 初期アメリカの国家形成と犯罪者的無意識
著 者:白川 恵子
出版社:小鳥遊書房
「抗者の物語 初期アメリカの国家形成と犯罪者的無意識」は以下からご購入できます
ハリエット・タブマン 「モーゼ」と呼ばれた黒人女性/新曜社
ハリエット・タブマン 「モーゼ」と呼ばれた黒人女性
著 者:上杉忍
出版社:新曜社
「ハリエット・タブマン 「モーゼ」と呼ばれた黒人女性」は以下からご購入できます
マルコムX 伝説を超えた生涯 (日本語)/白水社
マルコムX 伝説を超えた生涯 (日本語)
著 者:マニング・マラブル
翻訳者:秋元 由紀
出版社:白水社
「マルコムX 伝説を超えた生涯 (日本語)」は以下からご購入できます
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