資本主義リアリズム 書評|マーク・フィッシャー(堀之内出版)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年12月21日 / 新聞掲載日:2019年12月20日(第3320号)

資本主義リアリズム 書評
ポピュリストになることなくポピュラーで知的な仕事・労働をすること?

資本主義リアリズム
著 者:マーク・フィッシャー
出版社:堀之内出版
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 緊縮財政政策下のイギリスにおける貧困・チャヴズや人権・エンパシーをトピックとするブレイディみかこの一連の著作とは別に、あるいはまた、「多国籍資本主義時代における第三世界文学」をあらためてコメンタリー付きで収録したアレゴリーとイデオロギーに関するフレドリック・ジェイムソンの新著とは別に、ポスト・パンクの系譜を引き継ぐかたちでポピュラー音楽の歴史やサブカルチャーを論じながら主として英国のネオリベラリズムを批判的に吟味したマーク・フィッシャーを取り上げることから、今年の回顧をはじめてみたい。原著英語版がインディペンデント系の出版社から出ている『資本主義リアリズム』セバスチャン・ブロイ/河南瑠莉訳(堀之内出版、二〇一八)をはじめとして二〇一七年の彼の死後に編集・出版された一連のテクストは、エスタブリッシュメントとして制度化された研究・教育の内部というよりは、フリーランスの理論家・文化批評家としてブログによる発信という媒介を経てグローバルなメディア空間で流通したもので、フィッシャーと協働関係にあるライターや研究者の活動とともに、今年、注目を集めた。

狭義のイギリス文学では、小説や演劇等の映画へのアダプテーションの問題をイギリス文学研究者が新たに論じようとした論集『イギリス文学と映画』松本朗・岩田美喜・木下誠・秦邦生編(三修社)が出版されている。同様に、『アメリカ文学と映画』杉野健太郎編(三修社)もある。フィッシャーのさまざまなテクストと日本のイギリス文学研究者の論集との共通性は、「ポピュリストになることなくポピュラーで」「知的な」仕事・労働をすることへのコミットメントの試み、としてとらえるのが、いいかもしれない。そのうえでポイントとなるのは、グローバル化したモダニティとしてのポストモダニティとその歴史的条件を、あらためて、とらえなおすことであろう。

なるほど、一九九〇年代の多文化主義やアイデンティティ・ポリティクスへの反動形成でもあるある種のポピュリズムやナショナリズムというかたちをとった保守主義、あるいは、「政治の右翼化」を、文化の領域とりわけジェンダー・レベルにおける異性愛制度や(性的再生産や人口の「適切な」コントロールと密接につながる)婚姻関係の強要に見出し、そこに女同士の絆やその親密さに基づく文化の政治学・性愛学を対置してみることは、リベラリズムの立場からするなら、十分に意味がある、だろう。女性たち・女子たちがキャリアの達成とロマンスの成就を、両方とも同時に、各個人の自己責任のリスク・マネージメントのもとに、追い求める「ポストフェミニズムの時代」ともいわれる現在、それでもフェミニズムの可能性を、「映画産業の複合企業化」が、より適切には、その背後に存在するグローバルで多国籍なメディア企業が、地球規模でプロモートし流通させる「消費文化に抗うことなく」、女たちの欲望を「成就」する映像文化のナラティヴ(キャリー・フクナガによるイギリス小説『ジェイン・エア』の映画へのアダプテーション)に探ってみる(木下)、といった具合に。と同時に、トニー・ブレアのニュー・レイバーが遂行した――いずれ二〇〇八年のリーマン・ショックでひとつの契機を画することになる――ネオリベラリズムの第二段階の過程で収奪された「モダニティの取り戻し」(Mark Fisher and Jeremy Gilbert, Reclaim Modernity: Beyond Markets, Beyond Machines.2014)のプロジェクトも共存しているのが、現在なのかもしれない。すなわち、グローバル資本主義とネオリベラリズムが前景化した市場の背後で、国家が、とりわけ文化とは切断された経済・政治的領域において、グローバル・ガバナンスを編制するさまざまなネットワークとの連動において、推進した官僚主義・画一的な標準化に対して、これらに抗う可能性を、新たな公共空間における教育とヘルス・ケアに探るプロジェクト。だが、ひょっとしたら、現在おこなわれているこれら二つの試みとは違ったやり方で、さらには、ブレグジット騒ぎがなかなか収まらない今のイギリスでジェレミー・コービン労働党によっても「再生」されつつある「都市社会主義」とも異なる仕方で、「市場の彼岸、機械の彼岸」を、消費の対象として商品化されたイメージというよりは、むしろ、アイディアとして、感じることそして思考することも、必要なのかもしれない。ポストモダニティをあらためて取り上げてみるとは、たとえば、そういうことだ。
この記事の中でご紹介した本
資本主義リアリズム/堀之内出版
資本主義リアリズム
著 者:マーク・フィッシャー
出版社:堀之内出版
以下のオンライン書店でご購入できます
イギリス文学と映画 /三修社
イギリス文学と映画
著 者:松本 朗 、岩田 美喜、木下 誠、秦 邦生
出版社:三修社
以下のオンライン書店でご購入できます
アメリカ文学と映画 /三修社
アメリカ文学と映画
編集者:諏訪部 浩一、山口 和彦、大地 真介
編集責任:杉野 健太郎
出版社:三修社
以下のオンライン書店でご購入できます
「アメリカ文学と映画 」出版社のホームページはこちら
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