82年生まれ、キム・ジヨン 書評|チョ ナムジュ(筑摩書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年12月21日 / 新聞掲載日:2019年12月20日(第3320号)

82年生まれ、キム・ジヨン 書評
日本社会と韓国 社会の現状と差異

82年生まれ、キム・ジヨン
著 者:チョ ナムジュ
出版社:筑摩書房
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女性関係で、今年に話題になった本と言えば、『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房)だろう。正確に言えば去年の12月に翻訳が出版された小説ではあるが、今年の収穫にいれていいだろうか。著者のチョ・ナムジュは、韓国で社会学科を卒業し、放送作家も経験した小説家である。

小説でありながら、なぜ「女性学」でとりあげるかといえば、極めて社会的な問題提起的な色彩の強い異色の小説だからである。「このようなかたちでの小説があり得るのか」と思った。私から見ると「ツイッター小説」にみえる。日常生活で直面する、ひとつひとつは小さく見える「ごくありふれた」ジェンダーに関する小さな出来事のつぶやき。それらの出来事をつなぎ合わせていくと、押しつぶさんばかりの重荷を背負わされた女性の物語ができる。読み始めのミステリータッチとは異なって、最後まで「何も起こらない」小説である(伏線を回収しないつもりかと、驚くほどに)。この小説に憤慨した韓国の男性たちが、「すべての男がそうではない」、つまり「ノットオールマン」なのだと、日本のアマゾンのレビューサイトに自動翻訳で投稿攻撃をかけてきたというエピソードまでが、ツイッターっぽい。

「キム・ジヨン」は、韓国で1982年に生まれた女性で一番多い名前だという。日本風に言うと「佐藤裕子」さんだ(1982年生まれの日本人女性で一番多い名前だと、訳者の斎藤真理子さんが述べている)。最大公約数的な女性キム・ジヨンが、韓国社会で暮らしていくときに直面していくジェンダーに関する小さな問題は、日本の女性たちにどう受け取られるのか。自分たちの物語でもあり、遠くも近くもある国の話でもある。女性たちの感想の多様さも興味深かった。

今年の『文藝』の秋季号「韓国・フェミニズム・日本」特集は、この雑誌不況のなかで、重版を重ねたという。その完成版『韓国・フェミニズム・日本』(河出書房新社)、若手フェミニストたちの活動がうかがい知れる『韓国フェミニズムと私たち』(タバブックス)、イ・ミンギョンほかの『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』(タバブックス)など、日本社会と韓国社会の状況を重ね合わせつつ、その差異をもまた考えさせられる本が多く出版された年だった。

ハリウッドに端を発した#Me Tooムーブメントを受けて、日本でも性被害について沈黙しないという同様の運動が起こった。石川優実さんによる『#KuToo 靴から考える本気のフェミニズム』(現代書館)は、靴と苦痛、#Me Tooが掛け合わされたムーブメントについての書籍である。なぜ女性だけが、職場でヒールの高さまで決められなければならないのか。健康被害という側面からも語られるが、ジェンダーにかんしての問題であり、性差別なのだという視点を石川さんが崩さなかった点が、突き抜けていると思われた。

2017年には性犯罪に関する刑法が改正され、3年後の見直しが附則に盛り込まれているが、今年は、暴行脅迫や抗拒不能に関して、疑問の残る判決が立て続けに出された年でもあった。伊藤和子の『なぜ、それが無罪なのか⁉』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、現在の性暴力をめぐる刑法への疑問が詰まっており、読みやすい啓蒙書である。また信田さよ子の『〈性〉なる家族』(春秋社)は、家族の中での性被害の深刻さを描き出している。

また牧野雅子の『痴漢とはなにか 被害と冤罪をめぐる社会学』(エトセトラブックス)は、1980年代から90年代前半まで、痴漢マニュアルや痴漢体験記などが公然とあふれ、痴漢が娯楽として消費されていた様を明らかにしている。90年代後半に痴漢が犯罪とされ、痴漢が「憧れから不名誉」へと転換すると、今度は冤罪論が幅を利かすようになる。「誘ってきた」ように見えるのに、突然痴漢として自分を突き出す女たちへの憎悪の分析が興味深かった。

こうした女性たちの運動が高まるなかで、『ボーイズ 男の子はなぜ「男らしく」育つのか』(レイチェル・ギーザ、冨田直子訳、DU BOOKS)は、いまの若い男性もまた解放されるためにはどうすればいいのかを考えた、読みやすい良書である。近年の男性学もまた、興味深いムーブメントを形成しているように思う。
この記事の中でご紹介した本
82年生まれ、キム・ジヨン/筑摩書房
82年生まれ、キム・ジヨン
著 者:チョ ナムジュ
出版社:筑摩書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「82年生まれ、キム・ジヨン」出版社のホームページはこちら
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