資本主義と民主主義の終焉 書評|水野 和夫 (祥伝社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年12月21日 / 新聞掲載日:2019年12月20日(第3320号)

資本主義と民主主義の終焉 書評
日本経済の葛藤、資本主義の黄昏
新たな時代を生き抜く〈地図〉を求めて

資本主義と民主主義の終焉
著 者:水野 和夫
出版社:祥伝社
このエントリーをはてなブックマークに追加
平成から新たな元号「令和」の時代へ。平成時代を多面的に考え直す多くの書籍が刊行(水野和夫・山口二郎『資本主義と民主主義の終焉』祥伝社新書、伊丹敬之『平成の経営』日本経済新聞出版社他)。失われた30年とも称される〈日本経済〉の苦悩・葛藤を総括し、そこからの突破口をあらためて探究しようとする精力的な営みがそこにある。ベルリンの壁崩壊から30年、米英の自国優先主義が先鋭さを増す昨今の国際情勢。もうひとつは、ここ数年来、学際的にも関心の高い〈資本主義〉というしくみの未来―その終焉や限界―についての論議だ。

社会科学としての経済学の体系的発達は〈資本主義〉の自己認識の歩みを深めることを契機とし、その成長・発展・停滞・危機そして再生の動態的変容はつねに学術的な主要関心であり続けた。NHK・BS1での放送シリーズ第3弾『欲望の資本主義3 偽りの個人主義を越えて』(東洋経済新報社)。市場や自由のあり方、そして中央銀行を脱した貨幣発行論の意義を深く洞察したハイエクの経済思想をいまどうみるべきか。

当該番組の制作統括者の丸山俊一『14歳からの資本主義』(大和書房)は、マルクス、ケインズやシュンペーターら経済学の偉人や現代の批判的知性(スティグリッツ、トーマス・セドラチェクやマルクス・ガブリエルら)の肉声を辿り、ICTを基盤とするグローバル化社会の功罪、経済成長とテクノロジーの相関、格差・分断社会の諸相、GAFAの衝撃、欲望とルールのあり方など重要な問題群を平易に概説。「やめられない、とまらない」人間のもつ欲望の重層構造は今日の資本主義をこれからも維持させうるか、それとも瓦解させうるか。難解だがスリリングな問いが未来に待ち構えている。

こうした内容と関連する推奨作は、斎藤幸平編『未来への大分岐』(集英社新書)、ポール・クルーグマン他『未完の資本主義』(PHP新書)、岩井克人他『資本主義と倫理』(東洋経済新報社)、イマニュエル・ウォーラーステイン他『資本主義に未来はあるか』(唯学書房)等。岩井氏は、アダム・スミス以来の「経済学は、その理論体系から倫理を葬り去ることによって成立した学問であったはずである」と回顧し、信任(関係)論とそれを支える「忠実義務(Duty of Loyalty)」のあり方から、実際のところわれわれが生き暮らす「資本主義のまさに真っただ中に倫理がある」と明言する。主流派経済学批判から得られる氏の洞察は、資本主義と経済学のゆくえをどう展望させうるか(なお「欲望の資本主義」の特別編として2019年7月に放送された岩井克人『「欲望の貨幣論」を語る』が刊行予定)。
本年度のもっとも大きな収穫作は、世界的経済学者としてきわめて多面的な領域で活躍し続けた宇沢弘文の生涯と学問的軌跡を綿密に描き出した佐々木実『資本主義と闘った男 宇沢弘文と経済学の世界』(講談社)であろう(第6回「城山三郎賞」受賞作)。ノーベル賞のアローらに認められ、米国でいち早く数理経済学の最先端分野を開拓し国際的名声が頂点にあるなか日本へ帰国。高度成長の負の遺産である公害や都市・環境破壊など社会問題に覚醒し、自ら構築してきた新古典派理論(近代経済学)や米国で支配的となったフリードマンらの新自由主義を根底的に批判。こうした宇沢の葛藤の思索は晩年の「社会的共通資本」の理論に帰結していく。宇沢経済学の変質とその潜勢力とは何か、いわば「未完の思想」は後世に委ねられる。宇沢の〈遺産〉は日本社会の未来をどう照らし出すのか。

そしてあらためて〈日本経済〉の葛藤。「日本経済『失われた20年』を超える」という副題を掲げる清水洋『野生化するイノベーション』(新潮選書)は、ヒト・モノ・カネなど経営資源の流動性の観点からイノベーションの特質を分析し、日本経済の停滞にも考察を及ぼす。アベノミクス発動から最重要課題(のひとつ)として日本経済のかかえる、長期デフレと低成長。そこから脱却できない理由、そしてどうすればこうした事態を打開できうるか。中野剛志『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】』(KKベストセラーズ)は、誰もが知りたいそうした問いに圧倒的な明快さで説き明かそうとする好著だ。氏の主張は政策立案・担当の経済学者の責任や主流派経済学の構造的欠陥にも及び、含みは深い。続編【戦略編】では政治や思想の話をふんだんに盛り込み、「新時代へのピポット戦略」を提起する(本書でも論及され、議論熱が高まっているMMT(現代貨幣理論)については、ランダル・レイ『MMT現代貨幣理論入門』東洋経済新報社、藤井聡『MMTによる令和「新」経済論』晶文社、を参照)。
雇用・労働問題を〈雇用身分〉化と〈労働時間〉という観点から精密に考究し、「まともな働き方」―まともな雇用・賃金・労働時間―を提唱し続けた(故)森岡孝二『雇用身分社会の出現と労働時間 過労死を生む現代日本の病巣』(桜井書店)を最後にあげておく。遺著でありいわば氏のライフワークとしての本書は、未来を生き抜くわれわれに多くの示唆を与えよう。
この記事の中でご紹介した本
資本主義と民主主義の終焉/祥伝社
資本主義と民主主義の終焉
著 者:水野 和夫
出版社:祥伝社
「資本主義と民主主義の終焉」は以下からご購入できます
「資本主義と民主主義の終焉」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
塚本 恭章 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
ビジネス・経済 > 経済学関連記事
経済学の関連記事をもっと見る >