リベラリズムはなぜ失敗したのか 書評|パトリック・J・デニーン( 原書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年12月21日 / 新聞掲載日:2019年12月20日(第3320号)

リベラリズムはなぜ失敗したのか 書評
毀損された「公正さ」
世界を飲み込む反リベラル・デモクラシー運動

リベラリズムはなぜ失敗したのか
著 者:パトリック・J・デニーン
翻訳者:角 敦子
出版社: 原書房
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 自由民主主義(リベラル・デモクラシー)の危機――ここ数年、出版される政治学関連の著作のなかで、とりわけ目を引くようになった主題である。もちろんこの主題自体は古い日付をもつものであり、二〇世紀以降繰り返し提起されてきたものである。しかし近年の右派ポピュリズムに代表される反リベラル・デモクラシー的な運動は、一過性のものとしてやり過ごすことのできない巨大さで北米やヨーロッパのみならず、世界中を飲みこもうとしているのである。「寛容・統合」を旗印とするリベラル・デモクラシーは、「排除・分断」の政治にとって代わられてしまったかのようだ。

こうした世界的な潮流を踏まえてみると、まず取り上げねばならないのはヤン=ヴェルナー・ミュラー『試される民主主義(上・下)』(板橋拓己・田口晃監訳、岩波書店)とパトリック・J・デニーン『リベラリズムはなぜ失敗したのか』(角敦子訳、原書房)である。アプローチこそ異なるが、両者ともに今日の「危機」を、リベラル・デモクラシーの本質に属する構造的な問題ととらえる点で共通している。ミュラーは、二〇世紀のリベラル・デモクラシーの歩みを、「制度化された不確実性」を実現する試みとみなしている。本質的に不確実性を胚胎するリベラル・デモクラシーは、さまざまな異議申し立てに晒されながら、二〇世紀を通して西ヨーロッパ世界を中心に徐々に根付いてきた。しかしそのことは不確実性が抹消されたことを意味するわけではない。反多元主義的な右派ポピュリズム運動によって、その不確実性は容易にまた表出してくるのである。他方でデニーンは、リベラリズムの内在的な問題が今日の「危機」の淵源であるとみなす。それは、リベラリズムはそのイデオロギーを実現し得なかったからではなく、むしろ十全に実現してしまったからこそもたらされた「危機」なのだ、というわけだ。リベラリズムは個人主義を基礎とし、個人の欲望の解放を肯定するイデオロギーである。しかるにリベラリズムは、個人の欲望をいわば無制約的に解放する一方で、それを統御するメカニズムを内在的に持ちあわせていなかった。この社会統合の原理としての矛盾が、完成に近づくにしたがって露呈してきたと、デニーンはみなすのである。このように、両者はともに現在の「リベラル・デモクラシー」の体制には本質的に不安定さを引き起こす要因が内在していることを示している。もっとも、それでもこの体制の維持に賭けるミュラーと、ポリス的市民性の回復を訴えるデニーンとでは、その処方箋はまったく異なる。しかし「危機」の根源をどこにみるのかという点に着目するならば、両者の議論から教えられることは多いはずである。

もちろんこの「危機」が沸点に達するに至った背景は、内在的な原因論だけですべてを説明することはできない。右派ポピュリズム運動が継続して力を保ち続けているがゆえに、皮肉にもリベラル・デモクラシーへの対抗言説がどのようにつくられているのかを論じる資料には事欠かない状況になっている。ルート・ヴォダック『右翼ポピュリズムのディスコース』(石部尚登・野呂香代子・神田靖子編訳、明石書店)は、ヨーロッパを舞台として右派ポピュリズムの言説が多数者を巻き込んでいくその過程を分析しており、一読の価値がある。

さて、では日本のリベラル・デモクラシーの状況はどうか。公文書の問題一つとってみても、その根源的な価値のひとつである「公正さ」が徹底的に毀損されていることは容易に看取されよう。もし私たち一人ひとりの市民が、こうした問題を軽視し、日本におけるリベラル・デモクラシーの「危機」を座視するのであれば、そのときこの体制は容易に反転し、瓦解することになるであろう。現代の欧米を念頭に著されたこれらの著作は、この体制が所与でも自明でもないことを、私たちに再び教えているのである。
この記事の中でご紹介した本
リベラリズムはなぜ失敗したのか / 原書房
リベラリズムはなぜ失敗したのか
著 者:パトリック・J・デニーン
翻訳者:角 敦子
出版社: 原書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「リベラリズムはなぜ失敗したのか 」出版社のホームページはこちら
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