いけない 書評|道尾 秀介(文藝春秋)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年12月21日 / 新聞掲載日:2019年12月20日(第3320号)

いけない 書評
凝った作りの連作短編集が記憶に残る
黒い仕掛けの曲者、物語の意味を再考するよう促す趣向、緻密な伏線で丁寧に大胆に

いけない
著 者:道尾 秀介
出版社:文藝春秋
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いけない(道尾 秀介)文藝春秋
いけない
道尾 秀介
文藝春秋
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 凝った作りの連作短編集が記憶に残る一年だった。年明け早々に読んだ二冊――若竹七海『殺人鬼がもう一人』(光文社)、葉真中顕『W県警の悲劇』(徳間書店)の印象が強かったせいだろう。前者は、東京郊外の寂れた町を舞台に、主人公の女性刑事とその相棒が、事件を解決しながらちゃっかり〈不労所得〉をいただく物語。登場人物のほぼ全員が、程度の差はあれ悪人という黒い作品だ。意地の悪いユーモアが忘れがたい。後者はある県警を舞台に、旧態依然とした体質に対峙する女性警視を中心に描かれた連作。こちらも黒い仕掛けが施された曲者だ。

降田天の『偽りの春』(KADOKAWA)は、犯人の視点から描いた倒叙ものの体裁を取りながら、常に意外な角度からの驚きを仕掛けた作品である。

こうした連作短編集に変わった趣向を取り入れたのが道尾秀介だ。『いけない』(文藝春秋)では、各章のラストに配した写真に真相を織り込んで、読者を驚かせつつ、物語の意味を再考するよう促す。

また、相沢沙呼『medium 霊媒探偵 城塚翡翠』(講談社)は、霊媒と推理作家のコンビが謎を解く連作に、緻密な伏線で驚きを仕掛けてみせる。きわめて丁寧に、そして大胆に構築された作品だ。

謎解きを中心に置いた作品では、他に今村昌弘『魔眼の匣の殺人』(東京創元社)も印象深い。デビュー作『屍人荘の殺人』に続いて、特殊な状況設定を活かした謎解きを楽しめる。一方、阿津川辰海『紅蓮館の殺人』(講談社タイガ)は、この作者にしてはノーマルな状況設定だが、タイムリミットの緊迫感と盛りだくさんの謎解きが大きな魅力だ。

ほか、建築士が、残された古い椅子を手がかりに失踪したクライアントの行方を探る横山秀夫の『ノースライト』(新潮社)、前回の東京オリンピックの一年前、一九六三年に起きた犯罪を描く奥田英朗『罪の轍』(新潮社)も、人々の織りなすドラマで読ませる。

海外作品では、昨年に続いてアンソニー・ホロヴィッツの作品が好評だった。『メインテーマは殺人』(山田蘭訳、創元推理文庫)では、元刑事の探偵と作者ホロヴィッツ自身が、奇怪な事件に挑む。

昨年に続いて、という点ではピーター・スワンソンも同様。多重の語りで先の読めない物語を提示する『ケイトが恐れるすべて』(務台夏子訳、創元推理文庫)は、前作とはまた異なる趣向で読者を翻弄する。

ドン・ウィンズロウも忘れがたい。アメリカと国境の向こうでの麻薬戦争を描いてきた『犬の力』『ザ・カルテル』に続く、長大なサーガを締めくくる大作『ザ・ボーダー 上・下』(田口俊樹訳、ハーパーBOOKS)。作者の怒りが重く響く作品だ。

ジェフリー・ディーヴァーも、リンカーン・ライムものの最新作『カッティング・エッジ』(池田真紀子訳、文藝春秋)で、ベテランとして安定した腕前を見せている。

奇異な趣向で記憶に残るのが、スチュアート・タートン『イヴリン嬢は七回殺される』(三角和代訳、文藝春秋)だ。客たちが集う貴族の館で殺人が――という「いかにも」な状況設定だが、主人公は同じ一日を、屋敷のさまざまな人物に乗り移って繰り返すという特異な設定が鍵を握る物語だ。

奇異といえば、ラヴィ・ティドハー『黒き微睡みの囚人』(押野慎吾訳、竹書房文庫)も強烈だ。本書の舞台は、史実と異なる道を歩んだ世界。共産主義革命でドイツを追われたヒトラーが、ロンドンで私立探偵を営む物語だ。結果的にハードボイルド探偵らしい行動をとるヒトラーの存在が実に皮肉な一冊である。

ほか、陸秋槎『雪が白いとき、かつそのときに限り』(稲村文吾訳、ハヤカワ・ミステリ)は端正な謎解きとして、ルー・バーニー『11月に去りし者』(加賀山卓朗訳、ハーパーBOOKS)は叙情に満ちた犯罪小説として、それぞれ印象に残る作品だった。
この記事の中でご紹介した本
いけない/文藝春秋
いけない
著 者:道尾 秀介
出版社:文藝春秋
以下のオンライン書店でご購入できます
medium 霊媒探偵城塚翡翠/講談社
medium 霊媒探偵城塚翡翠
著 者:相沢 沙呼
出版社:講談社
以下のオンライン書店でご購入できます
メインテーマは殺人/東京創元社
メインテーマは殺人
著 者:アンソニー・ホロヴィッツ
翻訳者:山田 蘭
出版社:東京創元社
以下のオンライン書店でご購入できます
「メインテーマは殺人」出版社のホームページはこちら
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