鏡の上を走りながら 書評|佐々木 幹郎(思潮社 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年12月21日 / 新聞掲載日:2019年12月20日(第3320号)

鏡の上を走りながら 書評
日常への視線の、詩への宿り
日々の暮らしの語りようのない静けさを綴る…市井の人々の様々な一日…時や命を刻むかのような静かな息に満ち…

鏡の上を走りながら
著 者:佐々木 幹郎
出版社:思潮社
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燃える水滴(若松 英輔)亜紀書房
燃える水滴
若松 英輔
亜紀書房
  • オンライン書店で買う
 長山靖生『恥ずかしながら、詩歌が好きです』(光文社新書)というユニークなタイトルの新書を読んでいる。オジサンが例えばいまさら恋愛を歌う詩歌だなんて…などと照れた素振りをしながらも近代詩への思いを熱く語っている。「言葉に結晶した詩人や歌人の心の動きを眺めていて、何より憧れるのは、彼らが日常をとても愛しているという、そのまなざしの堅実さ、真っすぐさです」とあとがきで語る。現代詩においてそのような日常への視線がどんなふうに感じられるのだろうか。どのように宿っているのだろうか。数多くの詩集を前にして、あらためて探ってみたいと思った。

そして本年の秋に川沿いの町を台風が襲った。洪水が起きた。天井まで水が浸かった家の復旧作業を町の皆で行った。畳や家財道具、水を吸った布団などを運び、泥をかきだした日々。いつもある日常を喪失してしまった方々と共に過ごしたことも頭を過ぎった。   東日本大震災の被災地をめぐり、もう一方で日々の暮らしへとまなざしを向け、語りようのない静けさを綴った佐々木幹郎『鏡の上を走りながら』(思潮社)、市井の人々の様々な一日の一こまを追い人生の道をたずねたかのような谷川俊太郎『普通の人々』(スイッチ・パブリッシング)、一つ一つが時や命を刻むかのように丹念に記されていて静かな息に満ちていた渡辺めぐみの『昼の岸』(思潮社)、やわらかな言葉を追いかけているうちに生の先の彼岸と立っているような感触に包まれていく池井昌樹『遺品』(同)、「自らの/こころの奥処に/手紙を書き送るように」と詩を自分へと向けて書くことの意味と深さを語る若松英輔『燃える水滴』(亜紀書房)、丁寧な編み物のように並んだ詩行に亡き夫への思いが深く映されている高橋順子『さくら さくらん』(deco)などに惹かれた。

刊行となったばかりで話題を集めている朝吹亮二『ホロウボディ』、渡辺玄英「星の(半減期」、石田瑞穂『Asian Dream』、岩切正一郎『HAPAX』(四冊とも思潮社)、細田傳造『みちゆき』(書肆山田)に詩の造形力と若々しく新鮮に湧いてくる泉を見つけることが出来た。伊藤浩子『たましずめ/夕波』、君野隆久『声の海図』(共に思潮社)、田尻英秋『こよりの星』(書肆 子午線)の三冊に言葉の灯火を感じながら導かれていく確かな世界があった。

若手では夏野雨『明け方の狙撃手』、望月遊馬『もうあの森へはいかない』(共に思潮社)、沢木遥香『わたしの骨格』(七月堂)、届いたばかりの最果タヒ『恋人たちはせーので光る』(リトルモア)のそれぞれに視点と視野の清新さと広がりとを感じた。批評では野村喜和夫『危機を生きる言葉 -2010年代現代詩クロニクル』、添田馨『クリティカル=ライン 詩論・批評・超=批評』(思潮社)が傑出していた。『安藤元雄詩集集成』(水声社)に、長い歳月をかけて内なる詩を問いかけてきた透徹した眼の力を感じた。
この記事の中でご紹介した本
鏡の上を走りながら/思潮社
鏡の上を走りながら
著 者:佐々木 幹郎
出版社:思潮社
以下のオンライン書店でご購入できます
燃える水滴/亜紀書房
燃える水滴
著 者:若松 英輔
出版社:亜紀書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「燃える水滴」出版社のホームページはこちら
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