ビット・プレイヤー 書評|グレッグ イーガン(早川書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年12月21日 / 新聞掲載日:2019年12月20日(第3320号)

ビット・プレイヤー 書評
素晴らしい短篇集多数、傑作揃い!
化け物級の売上を誇る、読みながらあまりのおもしろさに、走り出しそうになった長篇も。

ビット・プレイヤー
著 者:グレッグ イーガン
翻訳者:山岸 真
出版社:早川書房
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 今年のSFにおいてまず語りたいのは、素晴らしい短篇集が多数出たこと。たとえばテッド・チャン『息吹』(大森望訳、早川書房)は著者一七年ぶりのSF短篇集で、『メッセージ』の題名で映画化された短篇を含む前作『あなたの人生の物語』を上回る密度を誇る傑作ぞろい。中でも表題作「息吹」は我々の世界とは仕組みが異なる異世界の生活や原理を緻密に描き出しながら、一人の科学者の脳科学・物理学の追求を通して世界の真実に至ろうとする物語で、わずか三〇ページほどの中で世界を探求することの喜びが細部に至るまで織り込まれている。この一〇年で読んだ中で最上の一篇である。

他、外せない短篇集としては、グレッグ・イーガンによる、本格宇宙SF「孤児惑星」から、色覚を拡張することで我々生身の人間とは違った世界を見るようになった人間を描く「七色覚」まで、様々なテイストを持つイーガンの中から最良の部分を集積した短篇集『ビット・プレイヤー』(山岸真訳、早川書房)。意識と知性を問い続ける作家、ピーター・ワッツの最前線が凝縮された傑作選『巨星』(嶋田洋一訳、東京創元社)。AI、遺伝子操作、人工現実、人間強化など様々な科学技術が謎解きに密接に絡まりあってラスト一篇へと結実していく井上真偽『ベーシックインカム』(集英社)。短篇初出のほとんどが同人誌であるにも関わらず、ほぼ毎年のように大森望&日下三蔵責任編集の〈年刊日本SF傑作選〉に選出される作家・伴名練の短篇集『なめらかな世界と、その敵』(早川書房)も、オールタイム・ベスト級の傑作SF短篇集だ。

一方で長篇として今年記憶に残ったものとしては、劉慈欣の『三体』(立原透耶監修、大森 望ほか訳、早川書房)は外せない! アメリカで翻訳作品としては初めてヒューゴー賞を受賞し、中国で三部作累計二一〇〇万部を超えた化け物級の売上を誇る本作。一九六七年の文革が決定的に人生の行末を変えてしまった女性を物語の中核に置き、凄まじい勢いでスケールアップしていく世界観とそれをしっかりと支える背景の理屈、理論も併せ持った作品で、読みながらあまりのおもしろさに何度も走り出しそうになったほど。

話題性という意味では、複雑怪奇かつ太陽系人類の終末までが射程範囲に入った壮大なプロットがたまらない、チャールズ・L・ハーネス『パラドックス・メン』(中村融訳、竹書房)も凄かった。一九五三年に刊行された原作の初の邦訳で、機知に富み、深遠であると同時に軽薄な作品としてブライアン・オールディスに〈ワイドスクリーン・バロック〉と最初に言及された作品で、SFファンの間では幻の傑作扱いされていたのである。同じく竹書房から刊行の、ジャスパー・フォード『雪降る夏空にきみと眠る』(桐谷知未訳)は、人口の大半が冬眠をする世界で人々を魔物や盗賊から守る冬季取締官の活躍を描く冒険/恋愛SFで、ジョジョのようにアクの強いキャラクター陣が魅力。

他に長篇で取り上げておきたいものとしてはまず、周囲の人々の記憶に残らない特異体質の女性を描き出すクレア・ノース『ホープは突然現れる』(雨海弘美訳、KADOKAWA)。記憶に残らない彼女のことを追い求める人たちの物語でもあり、「狂おしいほど求めているのに、どうしても忘れてしまう」という特異な関係性の描き方が素晴らしい。

最後に、SFミステリィを紹介しよう。詠坂雄二『君待秋ラは透きとおる』(KADOKAWA)は透明になるとか鉄筋を生み出すとかいった能力を科学的に検証していき、その情報が『HUNTER×HUNTER』ばりの能力バトル・推理合戦に活きていく鮮やかな逸品。続けて筒城灯士郎『世界樹の棺』(星海社)は、ヒトそっくりの〈古代人形〉が存在する世界で、殺人事件を推理する過程で、誰がヒトで誰が古代人形なのか? この世界を彼らはどう「認識」しているのか? という世界に対する認識そのものが問われ、謎に絡み合ってくる極上のSF×ファンタジィ×ミステリィ。ぜひ、お読み逃しなく!
この記事の中でご紹介した本
ビット・プレイヤー /早川書房
ビット・プレイヤー
著 者:グレッグ イーガン
翻訳者:山岸 真
出版社:早川書房
「ビット・プレイヤー 」は以下からご購入できます
息吹 /早川書房
息吹
著 者:テッド・チャン
翻訳者:大森 望
出版社:早川書房
「息吹 」は以下からご購入できます
三体/早川書房
三体
著 者:劉 慈欣、立原 透耶
翻訳者:大森 望
出版社:早川書房
「三体」は以下からご購入できます
「三体」出版社のホームページはこちら
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