月人壮士 書評|澤田 瞳子(中央公論新社 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年12月21日 / 新聞掲載日:2019年12月20日(第3320号)

月人壮士 書評
天皇制のゆらぎと伝奇小説の隆盛
「螺旋」プロジェクト、併せ読みを楽しむ企画もの、 ハヤカワ時代ミステリ文庫創刊、光秀もの…

月人壮士
著 者:澤田 瞳子
出版社:中央公論新社
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月人壮士 (澤田 瞳子)中央公論新社
月人壮士
澤田 瞳子
中央公論新社
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熱源(川越 宗一)文藝春秋
熱源
川越 宗一
文藝春秋
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 二〇年ほど前、天皇制にゆらぎが出た時、なぜか伝奇小説がブームになると分析したことがある。近代に入って初めて天皇が退位、新天皇が即位された今年も、海族と山族の対立を軸に古代から近未来の日本史をたどる「螺旋」プロジェクト(中央公論新社)の八作品が刊行され(そのうち歴史時代小説は、澤田瞳子『月人壮士』、天野純希『もののふの国』、薬丸岳『蒼色の大地』、乾ルカ『コイコワレ』)、聖徳太子が呪術戦を繰り広げる荒山徹『神を統べる者』(中央公論新社)、尼子氏再建を伝奇的に解釈した諸田玲子『尼子姫十勇士』(毎日新聞出版)、山の民の活躍を描く四部作の完結編となる長谷川卓『嶽神伝 風花』(講談社文庫)、少年の復讐劇を追った矢野隆『源匣記 獲生伝』(講談社)、平安末期の歴史を吸血鬼とそれを狩る者との闘争にからめた武内涼『不死鬼 源平妖乱』(祥伝社文庫)、鬼退治もので大塚已愛『鬼憑き十兵衛』(新潮社)、夏原エヰジ『Cocoon 修羅の目覚め』(講談社)がデビューするなど、伝奇小説が隆盛だった。

今年は「螺旋」プロジェクトのほかにも、天野純希、今村翔吾、木下昌輝、澤田瞳子、武川佑、矢野隆が競演した『戦国の教科書』(講談社)、併せて読むとより面白くなる鈴木英治『義元、遼たり』と秋山香乃『氏真、寂たり』(共に静岡新聞社)、天野純希『信長、天が誅する』と木下昌輝『信長、天を堕とす』(共に幻冬舎)などの企画ものが多かったが、これも歴史小説の勢いがあったからだろう。

SFとミステリの老舗出版社・早川書房が、ハヤカワ時代ミステリ文庫をスタートさせたのも、大きなトピックといえる。

戦国ものでは、毛利元就を中間管理職的な武将とした岩井三四二『天命』(光文社)、徹底した時代考証を施した東郷隆『風魔と早雲』(エイチアンドアイ)、武田家の滅亡の裏側に迫る武川佑『落梅の賦』(講談社)、今川義元と徳川家康の謀略戦を描く大塚卓嗣『傾城 徳川家康』(光文社)、外交戦に着目した赤神諒『計策師』(朝日新聞出版)、関ヶ原の合戦後から大坂の陣までを追った岡田秀文『大坂の陣』(双葉社)、謀略戦を題材にした伊東潤の連作集『家康謀殺』(KADOKAWA)、歴史の定説を覆していく木下昌輝の連作集『炯眼に候』(文藝春秋)、石田三成の志が感動的な今村翔吾『八本目の槍』(新潮社)など、最新の歴史研究を踏まえた作品が多かった。

年末に入ると、谷津矢車『桔梗の旗』(潮出版社)、赤堀さとる『うそつき光秀』(講談社)、岩室忍『信長の軍師外伝 天狼 明智光秀』(祥伝社文庫)、吉川永青『毒牙 義昭と光秀』(KADOKAWA)など、明智光秀ものが増えたが、これは光秀を主人公にした来年のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』を意識したものと思われる。

幕末から近代を舞台にした作品は、新選組ものの小前亮『新選組戦記 上』(小峰書店)、小松エメル『歳三の剣』(講談社)、矢野隆『至誠の残滓』(集英社)、吉森大祐『逃げろ、手志朗』(講談社)、幕末の外交政策を描く木内昇『万波を翔る』(日本経済新聞出版)、逆転を賭け負け組の男たちが西南戦争に従軍する坂上泉のデビュー作『へぼ侍』(文藝春秋)、女性実業家が主人公の朝井まかて『グッドバイ』(朝日新聞出版)、戊辰戦争を独自の視点で切り取った熊谷達也『我は景祐』(新潮社)と須賀しのぶ『荒城に白百合ありて』(KADOKAWA)、板垣退助の生涯を追った門井慶喜『自由は死せず』(双葉社)、などが印象に残った。特に、アイヌのヤヨマネクフとポーランド人のピウスツキの関係から、国家とは、民族とは何かを問う川越宗一『熱源』(文藝春秋)は出色だ。

老後の人生をモチーフにした西條奈加『隠居すごろく』(KADOKAWA)、とむらいを題材にした梶よう子『とむらい屋颯太』(徳間書店)、江戸の獣医に着目した泉ゆたか『お江戸けもの医 毛玉堂』(講談社)、伊東潤初の市井もの『潮待ちの宿』(文藝春秋)は、心温まる人情と現代とも共通する社会的なテーマを両立させていた。江戸の殿さまを主人公にした土橋章宏『いも殿さま』(KADOKAWA)、佐藤巖太郎『将軍の子』(文藝春秋)、畠中恵『わが殿』(文藝春秋)、浅田次郎『大名倒産』(文藝春秋)は、いずれも政治改革、財政再建を描いており、それに背を向けている現代日本への皮肉が感じられる。

中国史では、塚本靑史『バシレウス 呂不韋伝』(NHK出版)と『玄宗皇帝』(潮出出版)、昨年からスタートした北方謙三『チンギス紀』(集英社)、欧米史では、歴史性とファンタジー性を融合させた上田早夕里『リラと戦禍の風』(KADOKAWA)、佐藤賢一の大作『ナポレオン』(集英社)、逢坂剛の西部劇愛が伝わる『最果ての決闘者』(中央公論新社)、川添愛の初の歴史ミステリ『聖者のかけら』(新潮社)などが、成果といえる。
この記事の中でご紹介した本
月人壮士 /中央公論新社
月人壮士
著 者:澤田 瞳子
出版社:中央公論新社
以下のオンライン書店でご購入できます
熱源/文藝春秋
熱源
著 者:川越 宗一
出版社:文藝春秋
以下のオンライン書店でご購入できます
「熱源」出版社のホームページはこちら
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