ナチズムは再来するのか?:民主主義をめぐるヴァイマル共和国の教訓 書評|板橋 拓己(慶應義塾大学出版会)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年12月26日 / 新聞掲載日:2019年12月20日(第3320号)

ナチズムは再来するのか?:民主主義をめぐるヴァイマル共和国の教訓 書評
現代史を画した重要な出来事の記念が重なる年
関連する書籍の刊行も目立った

ナチズムは再来するのか?:民主主義をめぐるヴァイマル共和国の教訓
監修者:板橋 拓己
出版社:慶應義塾大学出版会
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今年はヴァイマル共和国成立百周年、第二次世界大戦勃発八十周年、東西ドイツ成立七十周年、ベルリンの壁崩壊三十周年と、現代史を画した重要な出来事の記念がいくつも重なる年であった。それだけにこれらの歴史的出来事に関連する書籍の刊行も目立った。たとえばヴァイマル百周年を見据えつつ、現代史研究の視座から今日の民主主義の危機的状況に警鐘を鳴らしたアンドレアス・ヴィルシングほか『ナチズムは再来するのか?』(板橋拓己ほか監訳・慶應義塾大学出版会)がある。また第二次大戦関連で話題となった本としては大木毅の『「砂漠の狐」ロンメル』(角川新書)と『独ソ戦』(岩波新書)がある。

ナチズムやホロコースト関連の書籍としては、みすず書房の刊行物が目を引く。絶滅収容所で同胞の遺体の焼却・処理に従事していたユダヤ人特別作業班(ゾンダーコマンド)が秘密裡に残した手記や写真を考察したニコラス・チェアほか『アウシュヴィッツの巻物』(二階宗人訳・みすず書房)、この「アウシュヴィッツの巻物」も踏まえながら、冷戦後のホロコースト史学の拡張と深化を論じたダン・ストーン『野蛮のハーモニー』(上村忠男編訳・みすず書房)などである。また、アダム・トゥーズ『ナチス経済』全二巻(山形浩生ほか訳・みすず書房)は、経済政策の観点から第三帝国の新たな側面を浮き彫りにさせた本格的な専門書である。

冷戦関連も実り多く、特に白水社から重厚な書籍の刊行が目立った。アン・アプルボーム『鉄のカーテン』全二巻(山崎博康訳・白水社)は、冷戦構造の成立とソ連による東欧支配の確立過程を追跡したもの。「近現代ヨーロッパ二百年史」シリーズ(全四巻)の掉尾を飾るものとして、冷戦下の東西分断とその崩壊後のグローバル化の諸相を論じたイアン・カーショー『分断と統合への試練』(三浦元博訳・白水社)もある。冷戦の最前線だったドイツに特化すれば、東独の歴史を概観したウルリヒ・メーラート『東ドイツ史一九四五―一九九〇』(伊豆田俊輔訳・白水社)や、大戦末期のドイツ系「被追放民」の問題を論じた川喜田敦子『東欧からのドイツ人の「追放」』(白水社)が挙げられる。

一方で新書のシリーズ物も強い。今年から新しく始まった岩波新書の「シリーズ・アメリカ合衆国史」(全四巻)は一七世紀の一三植民地建設から二一世紀のグローバル化時代に至る北米の全歴史を包括するもので、現在のところ①和田光弘『植民地から建国へ』、②貴堂嘉之『南北戦争の時代』、③中野耕太郎『二〇世紀アメリカの夢』の三冊が刊行されている。中公新書の「物語歴史」シリーズは、今年も山之内克子『物語オーストリアの歴史』(中公新書)として世に出された。シリーズ物ではないが同一著者による連作もある。佐藤彰一『歴史探究のヨーロッパ』(中公新書)は二〇一四年から著者が立て続けに刊行しているヨーロッパ修道院の歴史シリーズの一環で、同書では宗教改革以後の修道院の学術活動に照準を合わせている。

「死の歴史学」の復権と言うべき動向も見られた。このたび邦訳が成ったミシェル・ヴォヴェル『死とは何か』全二巻(立川孝一ほか訳・藤原書店)は、死の歴史学においてはフィリップ・アリエスの『死を前にした人間』以来の記念碑的作品と言える。指昭博『キリスト教と死』(中公新書)もこの研究潮流の手法を踏襲し、墓碑やモニュメント、芸術作品等からイギリスの死生観の変遷を追跡したものである。

最後に池内紀『ヒトラーの時代』(中公新書)を挙げておきたい。記述内容の不正確さがツイッター上で指摘され、その是非をめぐっていわゆる「炎上」騒ぎにまで発展した。出版社の迅速な対応には敬意を表するが、この一連の騒動はSNS時代に本を書く/出版することの意味、さらには「新書」という媒体のあり方を改めて考えさせられる。(むらかみ・ひろあき=筑波大学人文社会系助教・ドイツ近現代史)
この記事の中でご紹介した本
ナチズムは再来するのか?:民主主義をめぐるヴァイマル共和国の教訓/慶應義塾大学出版会
ナチズムは再来するのか?:民主主義をめぐるヴァイマル共和国の教訓
監修者:板橋 拓己
出版社:慶應義塾大学出版会
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