橘諸兄 書評|中村 順昭(吉川弘文館)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年12月26日 / 新聞掲載日:2019年12月20日(第3320号)

橘諸兄 書評
◇歴史学は人間の学◇ 歴史上の人物を対象とした研究を重視

橘諸兄
著 者:中村 順昭
出版社:吉川弘文館
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橘諸兄(中村 順昭)吉川弘文館
橘諸兄
中村 順昭
吉川弘文館
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歴史学というものは、突きつめれば人間の学ということができる。その意味で、歴史上の人物を対象とした研究が重視されると思う。その点で今年の収穫として興味ある成果がみられた。

中村順昭『橘諸兄』(吉川弘文館)は、奈良時代中期に太政官首班として政治を領導した橘諸兄の生涯を叙述するが、政治的な考察だけでなく経済的な面にも注視して丁寧な筆致で著述する。
同じ叢書の西本昌弘『早良親王』(同)は、桓武天皇の実弟で、藤原種継の暗殺事件に絡んで廃太子とされて没した早良親王について描くが、研究史を丹念に踏まえて、種継暗殺の政治的背景と、その政治的影響も詳細に論究する。早良親王は立太子前には僧籍にあったことから、該期の仏教史の動向をも詳述する。

また遣唐留学生として渡唐しながらも帰国できずに、玄宗皇帝に仕えて李白など唐の文人とも交際したことでも知られる阿倍仲麻呂に論及する森公章『阿倍仲麻呂』(同)も貴重な成果。加えて瀧浪貞子『持統天皇』(中公新書)も、立后・即位・譲位をめぐって研究史を参考にしながらも大胆な推察のうえに私見を示す。例えば大津皇子を朝政に参加させたのは、天武天皇が臣下として草壁皇子→珂瑠皇子(文武天皇)という嫡系を補佐することを願ったものだと論述する。本格的な研究書になるが、大伴家持と改元にともない話題の『萬葉集』成立に属目して検討した朝比奈英夫『大伴家持研究』(塙書房)や、藤原不比等と『萬葉集』との関係に着目した金井清一『古代抒情詩「万葉集」と令制下の歌人たち』(笠間書院)なども最新の成果として注目される。

そして、政治史を専門とする筆者が関心あるのが、戦乱に焦点をあわせて「磐井の乱」「壬申の乱」「藤原仲麻呂の乱」などを概観した佐藤信『古代史講義【戦乱篇】』(ちくま新書)や「天平政界の再編と暗闘」として政変・動乱を追究した松尾光『闘乱の日本古代史』(花鳥社)。これら以外にも五・六世紀の王宮の存在形態を詳論した古市晃『国家形成期の王宮と地域社会』(塙書房)、宮・陵・神社・寺院などの「場」を考究した渡里恒信『日本古代の歴史空間』(清文堂出版)、日唐の賤人制度の婚姻や財産を比較して奴隷制は存在しなかったと主張する榎本淳一『日唐賤人制度の比較研究』(同成社)などの斬新な成果もある。

前述のように今年は人物伝の収穫が豊かだったが、これを展開した氏族研究の平林章仁『物部氏と石上神宮の古代史』(和泉書院)は、蘇我氏研究をも専門とする著者が一転して、物部氏を中心にヤマト王権や天皇との関係を神祇・仏教など宗教的性格から解明したもの。同様に蘇我・物部氏など古代豪族の実態を解説した水谷千秋『古代豪族と大王の謎』(宝島社新書)も興味深い。氏族研究といえば藤原氏、最後に手前みそで恐縮だが、木本好信『藤原南家・北家官人の考察』(岩田書院)と、『藤原式家官人の考察』(同)もある。(きもと・よしのぶ=龍谷大学文学部特任教授・日本古代政治史)
この記事の中でご紹介した本
橘諸兄/吉川弘文館
橘諸兄
著 者:中村 順昭
出版社:吉川弘文館
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