漢帝国―400年の興亡 書評|渡邉 義浩(中央公論新社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年12月26日 / 新聞掲載日:2019年12月20日(第3320号)

漢帝国―400年の興亡 書評
豊富な成果に恵まれた年
正面からの検討が難しいテーマについても

漢帝国―400年の興亡
著 者:渡邉 義浩
出版社:中央公論新社
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今年も多様な問題関心に基づいた豊富な成果に恵まれた。渡邉義浩『漢帝国』(中公新書)は、「漢民族」形成に決定的な役割を果たした漢帝国を「古典中国」と定義し、前後四〇〇年にわたる歴史を分かり易く解説。梅村尚樹『宋代の学校』(山川出版社)は、学校が持った宗教施設としての側面と知識階級(士大夫層)の公的空間としての側面に着目し、従来の「科挙の付属物」としてのイメージを刷新する意欲作。二十一世紀に入り考古学的成果にも助けられ深化した金代史研究では、古松崇志他編『金・女真の歴史とユーラシア東方』(勉誠出版)により簡潔に成果を概観できるようになった。太田出『関羽と霊異伝説』(名古屋大学出版会)は、中国を代表する民間信仰の神霊である関羽を、国家との関係から叙述し、政治・宗教・思想史の架橋を試みた。

金子肇『近代中国の国会と憲政』(有志舎)は、「議会専制」をキーワードに近代中国の議会の変遷を追い、一党独裁と見なされる現在の中国共産党体制も実は立憲的志向の到達点であるとの興味深い指摘がなされる。

中国では政治的な理由により正面から検討することの難しいテーマについても複数の成果を得た。柴田哲雄『汪兆銘と胡耀邦』(彩流社)は、民主化の希求を導きの糸に二人の政治家に着目。異色とも見られる取り合わせは、幅広い問題関心を持つ著者ならではのものだろう。日中戦争期、日本に協力したため「文化漢奸」と指弾された作家周作人。小川利康『叛徒と隠士』(平凡社)はその萌芽期にあたる日本留学時代から二十年弱の文学活動を分析した。「漢奸」群像を日中戦争前夜から戦後の亡命までのスパンで追った関智英『対日協力者の政治構想』(名古屋大学出版会)も日本ならではの成果である。こうした日中研究者の問題関心の差異について概観するには、川島真・中村元哉編『中華民国史研究の動向』(晃洋書房)が有用だ。一九三〇年代の日中の文化交流を伝える九州大学中国文学会編『目加田誠「北平日記」』(中国書店)からも、差異を認めあいながら互いの学問を研鑽する意義を再確認できよう。

この他、近現代中国における二人の著名な音楽家聶耳と冼星海に関する評伝として、それぞれ久保亨『日本で生まれた中国国歌』(岩波書店)と、平居高志『冼星海とその時代』(アルファベータブックス)を得たことも特記したい。

近年朝鮮王朝時代の史書の日本語訳に力を入れている作品社からは、豊臣秀吉の朝鮮侵略前夜に編まれた歴代国王の事績、許篈(梅山秀幸訳)『海東野言』が上梓された。詳細な註と解説で、個性豊かなエピソードが気軽に読めるようになったことを喜びたい。趙景達『朝鮮の近代思想』(有志舎)は、著者の三十数年にわたる思想史研究の集大成。朝鮮の近代思想は西欧の近代思想を受容しながらも、儒教の伝統的な民本主義思想が確固として存在し、西欧や日本の近代を相対化する契機があったことを、日本との比較を意識しながら論じる。室井康成『事大主義』(中公新書)は、「強者に追随して保身を図る態度」として使われる「事大主義」という言葉を軸に、日本・朝鮮半島・沖縄の東アジア三地域の歴史と相互関係を分析した。

斎藤照子『一八―一九世紀ビルマ借金証文の研究』(京都大学学術出版会)は、乾燥させた椰子の葉に書かれた私人間の契約文書テッガイッから、市井の人々の社会経済的変化に迫らんとした労作。恥ずかしながら東南アジアにもこうした私文書が大量に残されていることを初めて知る。

昨年から始まった山川出版社のシリーズ「歴史の転換期」は、歴史のターニングポイントを取り上げて世界史の共時性を重視した試み。今年は地域を超えた銀流通に象徴される欧亜の繋がりを扱った岸本美緒編『一五七一年―銀の大流通と国家統合』と、インド・中央アジア・オスマントルコを経てロンドンに繋がるイスラム知識人の相互連関を軸に二〇世紀初頭を描いた小松久男編『一九〇五年―革命のうねりと連帯の夢』が上梓された。前者に関しては、豊岡康史・大橋厚子編『銀の流通と中国・東南アジア』(山川出版社)、後者に関しては野田仁・小松久男編著『近代中央ユーラシアの眺望』(山川出版社)との併読で理解も深まろう。(せき・ともひで=公益財団法人東洋文庫奨励研究員・中国近現代史)
この記事の中でご紹介した本
漢帝国―400年の興亡/中央公論新社
漢帝国―400年の興亡
著 者:渡邉 義浩
出版社:中央公論新社
「漢帝国―400年の興亡」は以下からご購入できます
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