シンコ・エスキーナス街の罠 書評|マリオ・バルガス=リョサ(河出書房新社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年12月27日 / 新聞掲載日:2019年12月20日(第3320号)

シンコ・エスキーナス街の罠 書評
〈ブーム〉の中心作家たちの作品刊行
ラテンアメリカの都市論、ナショナル・アイデンティティを象徴する自然描写

シンコ・エスキーナス街の罠
著 者:マリオ・バルガス=リョサ
翻訳者:田村 さと子
出版社:河出書房新社
このエントリーをはてなブックマークに追加

今年四月、半世紀以上にわたってラテンアメリカ文学の翻訳、紹介に力を注いでこられた鼓直氏が八十九歳で逝去された。本紙の年末回顧特集にかなり早い時期からラテンアメリカ文学のセクションが設けられてきたのも、氏の先駆的な取り組みがあったからこそで、その衣鉢を継ぐものの一人として謹んでご冥福をお祈りしたい。

その鼓氏の教えを受けた第一世代である野谷文昭氏の編、訳によって、今年『20世紀ラテンアメリカ短篇選』(岩波文庫)と、『純真なエレンディラと邪悪な祖母の信じがたくも痛ましい物語』(河出書房新社)の二冊が上梓された。前者は一九六〇年代に始まるラテンアメリカ文学の〈ブーム〉世代の作家たちを中心に、その作品をテーマによって四つに分類したアンソロジーで、実に多彩な味わいを楽しめる。後者は「ガルシア=マルケス中短篇傑作選」という副題の通り、表題作と「大佐に手紙は来ない」の二つ中篇の他、短篇八作が新訳で収められていて、このノーベル賞作家の魅力を存分に味わえる一冊だ。
ガルシア=マルケスと共に〈ブーム〉の中心作家であり、九年前にノーベル文学賞を受賞した後も旺盛な創作活動を続けているバルガス=リョサも、今年河出書房新社より『シンコ・エスキーナス街の罠』(田村さと子訳)と、『プリンストン大学で文学/政治を語る』(立林良一訳)が出版された。前者はフジモリ大統領時代の一九九〇年代ペルーの社会状況を描き出した三年前の長篇小説で、読者をたちどころに物語世界に引き込んでいく手並みは八十歳という年齢をまったく感じさせない。後者は二〇一五年のプリンストン大学における講義録で、ルベン・ガリョ教授や学生たちを相手に、創作の舞台裏や、ジャーナリズム、政治との関わりが率直に語られていて、作家の素顔を知る上でも興味は尽きない。

水声社の「フィクションのエル・ドラード」シリーズには、ウルグアイのフェリスベルト・エルナンデスによる『案内係』(浜田和範訳)と、キューバのレオナルド・パドゥーラの『犬を愛した男』(寺尾隆吉訳)の二冊が新たに加わった。『案内係』には、多くの〈ブーム〉の作家たちを魅了したSF的ともいえる独特な味わいの十三の短篇が収められている。『犬を愛した男』は、スターリンの命を受けメキシコでトロツキーを暗殺したスペイン人ラモン・メルカデールをめぐる六百ページを超す長篇小説で、そこからは革命から二十年近くが経過したキューバの閉塞的状況も同時に浮かび上がってくる。

柳原孝敦の『テクストとしての都市 メキシコDF』(東京外国語大学出版会)は、スペイン人征服者によって破壊されたアステカ帝国の都テノチティトランの上に建設された、ラテンアメリカ随一の巨大都市であるメキシコ市の八つの地域を取り上げ、様々な文学・映画作品を通して縦横に論じた、実に刺激的な一冊だ。その第六章はトロツキーがフリーダ・カーロと恋に落ち、そして暗殺されたコヨアカンに当てられている。この柳原の都市論に対し、花方寿行の『我らが大地』(晃洋書房)は十九世紀前半のイスパノアメリカの五人の作家の詩作品を通して、ナショナル・アイデンティティのシンボルとしての自然描写を論じている。精緻な作品分析によって文学と政治の関係に取り組んだ労作で、昨年の本欄で紹介できなかったので、遅ればせながらここに記させていただく。(たてばやし・りょういち=同志社大学准教授・ラテンアメリカ文学)
この記事の中でご紹介した本
シンコ・エスキーナス街の罠/河出書房新社
シンコ・エスキーナス街の罠
著 者:マリオ・バルガス=リョサ
翻訳者:田村 さと子
出版社:河出書房新社
以下のオンライン書店でご購入できます
このエントリーをはてなブックマークに追加
立林 良一 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
文学 > 外国文学 > ラテンアメリカ文学関連記事
ラテンアメリカ文学の関連記事をもっと見る >