歌集 秋のモテット 書評|中根 誠(KADOKAWA)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年12月27日 / 新聞掲載日:2019年12月20日(第3320号)

歌集 秋のモテット 書評
詩歌の危機、文学の危機に反対声明 
中堅からベテランの歌人の充実した歌集、そして万葉集

歌集 秋のモテット
著 者:中根 誠
出版社:KADOKAWA
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短歌の世界で今年もっとも特筆すべき出来事は、文部科学省が打ち出した二〇二二年からの高校の国語の科目変更に反対する声明を現代歌人協会、日本歌人クラブが共同で発表したこと。

これは国語が、契約書やマニュアル等々の実用文書を読み解く「論理国語」、文学作品の感受の「文学国語」、作文技術の「国語表現」、「源氏物語」等々の古典鑑賞の「古典探求」の四つに分かれることで、授業の時間数から、この四科目を均等に学習することは難しく、「文学国語」が最も軽視されそうなことへの危機を表明した声明である。

具体的には正岡子規、石川啄木、与謝野晶子、北原白秋、斎藤茂吉といった近代詩歌の礎を創った作家の作品が「文学国語」からはオミットされそうだという懸念でもある。

これは詩歌の危機というだけでなく、文学そのものの危機なのである。この危機を看過せず、日本文藝家協会に続いて短歌の二団体が毅然と反対の意思表示をしたことは、特記すべきである。
歌集 秋のモテット(中根 誠)KADOKAWA
歌集 秋のモテット
中根 誠
KADOKAWA
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中堅からベテランの歌人の充実した歌集が目だった一年であったといえる。

中根誠『秋のモテット』(KADOKAWA)、三枝昂之『遅速あり』(砂子屋書房)、小池光『梨の花』(現代短歌社)、坂井修一『古酒騒乱』(KADOKAWA)、久々湊盈子『麻裳よし』(短歌研究社)、大口玲子『ザベリオ』(青磁社)、吉川宏志『石蓮花』(書肆侃侃房)、黒岩剛仁『野球小僧』(ながらみ書房)、江田浩司『重吉』(現代短歌社)、川野里子『歓待』(砂子屋書房)といった歌集は現代短歌の表現世界の奥深さを十二分に証明してくれる。
・夾竹桃、カンナ、サル ビアみな赤し爆心地と いう季語を持つ国 
三枝昂之
・わたしいま広田先生こ の池でわかききみらに いふ「滅びるね」
坂井修一
・わが暮らしの地続きに 基地あることを辺野古 の海は明らかに見しむ
大口玲子
・七歳の双子の甥との野 球盤気づかれぬよう負 けるのも技 黒岩剛仁
・ひかりのなかであそぶ くうきに聲はみつサテ ィのひびきとほい夢か ら     江田浩司

平成から令和への天皇の代替わりに伴って、それにちなんだ関連書も何冊かでた。

面白かったのは『平成じぶん歌』(短歌研究社)。平成の三十一年間をテーマにした短歌を八十九人の歌人に詠ませて、それを集大成したアンソロジー。短歌の音数と同じ三十一という年数にちなんだ企画だろうが、年ごとのクロニクル形式あり、平成を一つの大テーマとしてとらえる作品ありとユニークな一巻に仕上がっている。
・戦没者墓苑に伸びし桜 の根昭和のふくらみわ れは超えたり
春日真木子
・もうすぐ終わるようや く終わるその前に空が 泣きたくなるほど静か
佐伯裕子

現在の上皇、上皇后のご夫妻が詠った短歌をそれぞれの場面に応じて、丁寧に読み解いてみせたのが永田和宏『象徴のうた』(文藝春秋)。戦地を訪ね、その地の戦死者への慰霊の祈りを読者もまた、深く実感することができ、うたの力を確認させてくれた。

品田悦一著『万葉集の発明』(新曜社)の再刊も、「令和」の萬葉集効果と言ってよいだろう。

「萬葉集」が「国書」の地位を獲得したのは、明治以降の国民国家成立の補強のためであったとするユニークなこの本が新装再刊され、新たな読者との出会いの機会ができたのは、やはり、今年の特記事項として喜ばしい。(ふじわら・りゅういちろう=歌人)
この記事の中でご紹介した本
歌集 秋のモテット/KADOKAWA
歌集 秋のモテット
著 者:中根 誠
出版社:KADOKAWA
「歌集 秋のモテット」は以下からご購入できます
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