九年前の祈り 書評|小野 正嗣( 講談社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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書評アイドル 渡辺小春が読む芥川賞
更新日:2019年12月27日

温かい思い出に浸りたくなってしまうと同時に、現代社会の問題についてまで、深く考えさせられた

九年前の祈り
著 者:小野 正嗣
出版社: 講談社
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九年前の祈り(小野 正嗣) 講談社
九年前の祈り
小野 正嗣
講談社
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 今回は、第152回芥川賞を受賞した小野正嗣さんの『九年前の祈り』(初出・群像2014年9月号)を選んだ。以前テレビでこの本が紹介されていたのがきっかけで読んでみたいと思っていたので、およそ5年越しの思いである。

主人公安藤さなえは、田舎の家族たちに反対されながらもカナダ人と結婚し、息子希敏を授かるも離婚。母子2人で東京暮らしをしていたが、生活が困難になり、さなえの実家のある海辺の小さな集落へ帰郷することになった。ある日、主人公はみっちゃん姉こと渡辺ミツの息子さんが病気らしい、と聞く。そのことをきっかけに、9年前、みっちゃん姉たち、同じ会社で働く女性たちと希敏と一緒に行ったカナダ旅行のさまざまな記憶が呼び起こされる。泣きわめいたり、勝手にどこかへ行ってしまったりと育児が難しい息子に揺れ動くさなえの心に、カナダでの景色と故郷の景色が重なる。最後にカナダの教会でそれぞれが祈ったこととは――。

9年前、と聞いて皆さんが思い浮かべる出来事は何だろうか。私の9年前というと、2010年、小学1年生の頃だ。そう思うとかなり昔のことに感じるが、もうあれから9年もたったのかと思うと時の流れとは恐ろしい。私が一番記憶に残っているのは、入学式がとても楽しみで、明日からどうやって友達になりたい子と話せるかを考えていたことや、入学後には小学6年生のお姉さんがとてもかわいくて優しくしてくれたことだ。可愛がってもらったことが懐かしい。しかし、ほとんどの記憶が映像でしか覚えていなく、そこで私は何を思って何を願っていたのか。感情の記憶がないことが寂しい。この本を読んでいると、ついつい平和な記憶に浸っていたい感覚になってしまう。

希敏は、よく泣いたり、わからない行動をとり悩ませる。“普通の子”ではないかもしれないが、ハーフな顔立ちをした希敏はより一層天使に見える。そんな息子に対してどうしていいかわからずモヤモヤとしていた母。カナダから帰る船から降りようとしたとき、手を放してしまって端から落ちそうになってしまった息子を強く、ギューッと抱きしめるシーンがある。

「顔をさらに息子の頭に、柔らかい髪に押し付けた。」このシーンからは最愛の息子は大事で、それを守り続けるという母の決意を感じた。

読み終えた後、私が真っ先に思い浮かべたのは母だった。先述のシーンを読んだ時、私も母にハグされているような感覚になったからだ。母に、育児の辛さや、赤ちゃんの頃の私について聞いてみた。子供と二人だけでいるときの孤独や、どうして泣いているのかわからないときが大変に感じたけれど、周りの人が優しく支えてくれて、赤ちゃんは周りの人を引き付けてくれる不思議な力を持っていると思ったそうだ。最近、児童虐待、育児放棄などの悲しいニュースが後を絶たない。子育てに悩まされている母親が多いのではないだろうか。

昔の温かい思い出に浸りたくなってしまうと同時に、現代社会の問題についてまで、深く考えさせられた小説だった。
渡辺小春
シャネル展に行ってきました。オートクチュールの素晴らしさ、緻密さ、可愛さをじっくり見ることが出来て、行けて良かったと思いました。洋服大好き!
この記事の中でご紹介した本
九年前の祈り/ 講談社
九年前の祈り
著 者:小野 正嗣
出版社: 講談社
以下のオンライン書店でご購入できます
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