佐藤栄作 戦後日本の政治指導者 / 7605(中央公論新社)長期政権が社会に刻印し象徴するもの  現在の世界と日本と私たちとを考える手がかりとして|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

著者から読者へ
更新日:2020年1月2日 / 新聞掲載日:2020年1月3日(第3321号)

長期政権が社会に刻印し象徴するもの
現在の世界と日本と私たちとを考える手がかりとして

佐藤栄作 戦後日本の政治指導者
著 者:村井 良太
出版社:中央公論新社
このエントリーをはてなブックマークに追加
 高度経済成長期の首相佐藤栄作は、日韓基本条約を結び、沖縄返還を実現した。「持たず、作らず、持ち込ませず」の非核三原則も佐藤政権期に宣明された。佐藤政権は二七九七日、約七年八ヶ月の最長不倒政権を記録し、短い晩年にはノーベル平和賞を受賞した。

テレビ時代の首相であり、長期政権であったが故に彼を記憶する人も多いだろう。にもかかわらず、吉田茂や田中角栄などと比べても社会の印象は薄く、核武装への意思や密約をめぐって評価は厳しい。二〇二〇年八月には現政権が佐藤の長期政権記録を抜くかも知れない。今、私たちは佐藤について何を知っているのか。それを届けることが本書の目的である。

本書では第一に、人間佐藤とその成長を内面から理解することに努めた。佐藤政権期についての研究は外交史を中心に多いが、佐藤自身の考えについては細切れに考察されてきた。しかし近年、佐藤の日記に加えて首相秘書官を務めた楠田實のまとまった資料が公開されたことで彼の肉声が多く明らかになってきた。風圧の宰相と引退会見の無骨さとは裏腹に、その実、涙もろいリーダーであった。

第二に時代の崖に注目した。佐藤政権は転換期にあって敗戦が残した問題と取り組む一方、高度経済成長の歪みなど、戦後の歩みそれ自体が生み出した課題とも向き合った。佐藤は社会開発によって冷戦を非軍事的に戦い、豊かさによって国民統合を図っていく。

そして第三に本書は沖縄返還史ともなっている。戦後二〇年目の一九六五年夏に沖縄を訪問し、その復帰実現まで戦後は終わっていないと述べて豊かな日本への再統合に努めた。その過程を通して日本国憲法の定着が進み、佐藤は経済的大国という戦後の次の日本像を構想した。

内容から二点に触れておきたい。一九六二年、池田再選への挑戦を断念した佐藤は「立候補する代わりに、世界を見に行こう」と四五日間の長期外遊に出る。ベルリンの壁が築かれたヨーロッパとキューバ危機の最中のアメリカを回り、アデナウアー西ドイツ首相やケネディ米大統領と対話している。佐藤はこの外遊で自由主義諸国共通の安全と繁栄を意識し、イギリス労働党指導者ウィルソンとの会見では核武装が通常兵器の整備を遅らせ、そもそも好ましい兵器ではないと得心している。もう一つは沖縄返還一年後の佐藤への新聞取材である。これは本書をお読みいただきたい。

私の最初のテーマは「憲政常道」と言われた第一次世界大戦後の政党政治であり、本書には再建された戦前政党政治を問う意識もある。歴史家は史料を読み、長い時間をかけて対象とする時代への土地勘を磨いていく。六〇年代史への跳躍にはもう一つの博士論文を書くほどの困難があった。本書は周囲からの教えと導きに本当に多くを依っている。

長期政権は、何かを社会に刻印し、何かを象徴している。本書は政党政治家佐藤栄作の評伝であるとともに戦後日本の小伝であり、現在の世界と日本と私たちとを考える手がかりともなるだろう。読んで楽しい本であってほしい。()
この記事の中でご紹介した本
佐藤栄作 戦後日本の政治指導者/中央公論新社
佐藤栄作 戦後日本の政治指導者
著 者:村井 良太
出版社:中央公論新社
以下のオンライン書店でご購入できます
「佐藤栄作 戦後日本の政治指導者」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
著者から読者へのその他の記事
著者から読者へをもっと見る >
社会・政治 > 日本の政治関連記事
日本の政治の関連記事をもっと見る >