ヒッピー世代の先覚者たち 対抗文化とアメリカの伝統 書評|中山 悟視(小鳥遊書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年12月28日 / 新聞掲載日:2020年1月3日(第3321号)

ヒッピー世代の先覚者たち 対抗文化とアメリカの伝統 書評
第一線で活躍する研究者たちの充実した論考集

ヒッピー世代の先覚者たち 対抗文化とアメリカの伝統
著 者:中山 悟視
出版社:小鳥遊書房
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 ひと昔前であれば、英米文学硬派の研究書のタイトルに「ヒッピー世代」が選ばれることはありえない。せいぜい本書ではサブタイトルに廻っている「対抗文化」に落ち着いたはずである。しかしロックの祭典として今も語り継がれ、本書でも村上東の論文で精緻に再検討されている1969年のウッドストック・フェスティバルからきっかり半世紀を経た現在では、当時最先端の同時代文学であったケン・キージーやカート・ヴォネガット、トマス・ピンチョン、ジョン・バース、ドナルド・バーセルミ、フィリップ・K・ディックらの主要作品の邦訳も出揃い、1960年代以降のポストモダン文学はとうに学術研究上の主題としてすっかり確立してしまった。権威ある日本英文学会新人賞は40年の歴史を持つが、2019年現在の時点で、これまでアメリカ文学部門の受賞作6本のうちピンチョンを主題にした論文は4本を数える。ふりかえってみれば、1993年、ヒッピーと共振する団塊の世代の代表ウィリアム・ジェファソン・クリントンが第41代アメリカ合衆国大統領の座を射止めたとき、60年代には公民権運動の指導者たちが暗殺されるという悲劇をくぐり抜けて来た黒人たちばかりか、同様に不遇をかこっていたサンフランシスコ・ベイエリアのLGBTQ集団が狂喜したことは、決して忘れられない。そう、半世紀以上の歳月を経て、対抗文化はすっかり制度と化したのである。それは当時こそ反体制を叫んでいた若者たちがやがて社会の制度を担い、その一部がアメリカ合衆国大統領になりおおせ、既得権益を培うのに十分な期間であった。極左が極右に転向し、反体制分子が新自由主義者に鞍替えするにも、十二分な期間であろう。ドナルド・トランプが第45代大統領になった時、アンチ・エスタブリッシュメントを謳ったのは、皮肉にも、まさに自身とも重なるヒッピー世代が体制化して獲得した既得権益そのものを撃とうとしたからである。

こうしたいきさつを考えると、過去十年の学会活動において米ソ冷戦をはじめとする様々なシンポジウムや共同研究を経てここにまとまった本書が、 目下第一線で活躍する研究者たちの充実した論考13本を揃え、アメリカン・ルネッサンス作家エマソン、ソロー、ポー、ホイットマンからロスト・ジェネレーション作家ヘミングウェイ、ミラー、ビート・ジェネレーション作家ケルアックを経て、プレスリーやノーベル文学賞詩人ディランが代表するロック文化やハリウッド映画産業にまで及ぶ射程で、ヒッピー世代と対抗文化が一過性のものではなく、むしろ19世紀から21世紀までを通貫するアメリカ的伝統のもとで顕在化したことを力強く明かしてみせたことには、絶大な意義を認めることができる。

とりわけ光っていたのは、右のような図式化をあらかじめ前提に踏まえつつも、そこからこぼれ落ちかねない作家に焦点を当てた舌津智之の論考「ウィリアム・サローヤンとヒッピー文化」である。1908年生まれのこのアルメニア系の作家は、アメリカ文学史における大きなカテゴリーからは漏れがちだが、しかしケルアックに影響を与え、反戦思想を抱き環境批評をも先取りするというめくるめく才覚を備えていたサローヤンを「知と情の領域を往還するヒッピー文化という参照枠」から読み直すならば、確かにアメリカ文学思想史上不可欠な系譜が一層はっきりと見えてくるだろう。
この記事の中でご紹介した本
ヒッピー世代の先覚者たち 対抗文化とアメリカの伝統/小鳥遊書房
ヒッピー世代の先覚者たち 対抗文化とアメリカの伝統
著 者:中山 悟視
出版社:小鳥遊書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「ヒッピー世代の先覚者たち 対抗文化とアメリカの伝統」出版社のホームページはこちら
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