本のエンドロール 書評|安藤 祐介(講談社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
更新日:2019年12月29日 / 新聞掲載日:2020年1月3日(第3321号)

安藤祐介著『本のエンドロール』 
愛知学院大学 増田 優菜

本のエンドロール
著 者:安藤 祐介
出版社:講談社
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本のエンドロール(安藤 祐介)講談社
本のエンドロール
安藤 祐介
講談社
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 「エンドロール」という言葉を聞くと、映画を思い浮かべる人が多いだろう。映画を観ると最後にエンドロールが流れ、その作品に関わったキャストやスタッフの名前がズラッと並ぶ。ところで、本にもエンドロールがあることをご存じだろうか。本では「奥付」と呼ばれている。多くは書籍の最終ページにあり、タイトル・刊行年・著者・出版社・印刷会社・製本会社などの名前が並ぶ。しかし、映画とは違い、そこには本を作っている出版社や印刷会社、製本会社の人の名前が書かれることはない。本書は、そんな奥付に載らない裏方たちの物語である。

本を開くと、若者の読書離れや電子書籍の台頭を受け、「斜陽産業」「沈みかけた船」などと言われる印刷業界の中で、その船を沈ませない為に戦う人たちがいた。物語は、豊澄印刷株式会社の会社説明会で就職活動中の女子学生が「夢をお聞かせいただきたいのですが」と質問するところから始まる。営業第二部・トップセールスの仲井戸は「夢は、目の前の仕事を毎日、手違いなく終わらせることです」と答えた。一方、同じく営業第二部の浦本は「私の夢は……印刷がものづくりとして認められることです」「印刷会社は……豊澄印刷は、メーカーなんです」と答えた。印刷会社はあくまで印刷という作業工程を請け負う会社なのか、それとも、ものづくりをするメーカーなのか、考えながら読んでいくことになる。本書はフィクションであるが、著者の安藤氏の約3年間に渡る取材に基づいて書かれた本の制作過程や登場人物の心情にはリアリティがある。

本書には魅力的な登場人物が多いが、私は印刷製造部係長の野末正義から目が離せなかった。彼は仕事や親戚のことでイライラしていたこともあり、「パパが造った」と本を指さしながら無邪気に笑う息子に「俺は本を造ってなどいない」「俺の仕事は、この、紙に、決められた色のインキを、乗せて、ただ、印刷する、だけだ」と当てつけるように言ってしまう。そんな彼が営業部の浦本が持ってくる無理難題を同僚と共にどうにか解決し、浦本の仕事に対する情熱に触れるうちに少しずつ変わっていく。本書の終盤で息子に「パパたちが造った本だ」と誇らしそうに一冊の本を差し出すシーンは、なんだか嬉しくなった。

本は著者が原稿を書いただけでは私たちの元には届かない。編集者が出版の企画を立てて、デザイナーと相談して本の仕様が決まり、印刷会社や製本会社によって製品化される。多くの人の「仕事」によって一冊の本が完成する。そして、その一人一人に人生があり、大切な家族がいて、仕事に対する想いがあることに気づかせてくれる。

本を愛するすべての人に読んでほしい。今までよりさらに本を愛おしいと思えるからだ。本書の最後には、『本のエンドロール』の製作に関わった印刷会社や製本会社の方、三十五人の名前が書かれている。あくまで本書の製作に関わった方々の名前が並んでいるのだが、一冊の本ができるまでにどれだけの人が関わっているかの指標になる。この本を読み終わった後、あなたは今まで読んだ本、これから出会う本の奥付が気になってしまうに違いない。そして、どんな人がどんなこだわりと情熱と責任を持って送り出した本なのか、目を凝らしても見えることのないエンドロールに想いを馳せずにはいられなくなるだろう。
この記事の中でご紹介した本
本のエンドロール/講談社
本のエンドロール
著 者:安藤 祐介
出版社:講談社
以下のオンライン書店でご購入できます
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