イメージを逆撫でする 写真論講義 理論編 書評|前川 修(東京大学出版会)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年12月28日 / 新聞掲載日:2020年1月3日(第3321号)

イメージを逆撫でする 写真論講義 理論編 書評
写真が内包する近代の矛盾
日に日にぼやける写真の輪郭を掴む

イメージを逆撫でする 写真論講義 理論編
著 者:前川 修
出版社:東京大学出版会
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 もはやなにを期待すればいいのかわからない。写真は終わった。そんな思いを抱いているのは筆者(鷹野)だけだろうか。

デジタル技術の進展に伴い、スマートフォン一台で誰もが自在に動画と静止画を撮り分けられる時代になった。ここでいう「静止画」は通常「写真」と呼ばれているが、果たして同じものと言えるのか。いずれにしろ、写真という媒体の輪郭が日に日にぼんやりしているのは確かだろう。

しかし本書では、そうした考えを一笑に伏すようなジェフリー・バッチェンの写真論が紹介される。「写真は死んだのかそれとも写真は生き残っているのかという始まりと終わりの議論も、(中略)写真の運動そのものを汲み上げてはいない」「そうした生/死、以前/以後をかわしてしまうすでに根源において亡霊的であった写真の運動に着目すること、これが(中略)彼の写真論の立場なのである」。

では、ここに言う「写真の運動」とは何か。「写真とはその発明から現在にいたるまで、(中略)あらゆる概念的対立(自然と文化、主体と客体、生と死)を掘り崩し、分霊させる、それ自身がメディア=霊媒であり霊であった」。つまり「デジタル写真は、すでに亡霊であったアナログ写真の亡霊であることになる。写真は現在、その厄介で手に負えない複雑性をさらに倍加させ、その根源の一部を全面化させている」。

先の例で言えば、写真が動画へと展開するのは当たり前で、日々自己解体して拡散する性質こそが写真の本性である、ということか。さらに付け加えるなら、写真を特定の枠組み(美的/社会的、現実/表象など)に収めて理解しようとするから悲観的になるのであって、「写真の運動」に目を向ければ異なる可能性が見えてくる、ということでもあるのだろう。

本書はヴァルター・ベンヤミンの『写真小史』(一九三一年)に始まり、二〇〇〇年代初頭までの主要な写真論を取り上げながら、閉塞した現在の写真論をどうすれば再び活性化できるかを考察した意欲作である。その中で著者は、バッチェンの理論に活性化への鍵を見いだしている。

本書後半では二〇一〇年までのデジタル写真に関する様々な論考が紹介される。変化の激しいデジタル写真をどのように考えるべきかを示唆する、現在性の強い内容となっている。最後はロラン・バルト『明るい部屋』の新たな解釈に挑んだ一章で締めくくられる。

実に多方面から「写真とは何か」と問い続ける本書だが、とりわけ印象に残ったのは、写真が偶然にも背負ってしまった近代性に関する記述である。

「近代市民社会において主体の絶えざる危機の源であった対立――道具的リアリズムと審美主義との対立――がここでも繰り返される。近代において写真が特別な位置を占めるのは、このメディアが、対立する両項各々の媒体となってきたからであり、(中略)それゆえ写真を語る言説はつねに、技術決定論と作家主義、客観的な機械の力と主観的な想像力、(中略)といった両者のあいだで揺れ動き、両者を結びつけようとしてきた」。

写真につきまとう二項対立は近代が抱える矛盾そのものだった。それはつまり、写真に関わる者はどんな素人であれ、今もなお連綿と引き継がれる近代の深層に直面させられるということでもある。近代以降、様々な科学技術が誕生したが、同様の性質を持つ媒体は他にない。こうした解き難い謎を内包するがゆえに人々は写真に取り憑かれてきたのである。

あとがきで著者は写真論の終わりを危惧するが、世界が近代性をおび続ける限り、人々は写真について語るのをやめないだろう。
この記事の中でご紹介した本
イメージを逆撫でする 写真論講義 理論編/東京大学出版会
イメージを逆撫でする 写真論講義 理論編
著 者:前川 修
出版社:東京大学出版会
以下のオンライン書店でご購入できます
「イメージを逆撫でする 写真論講義 理論編」出版社のホームページはこちら
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