キャパとゲルダ ふたりの戦場カメラマン 書評|マーク・アロンソン(あすなろ書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年12月28日 / 新聞掲載日:2020年1月3日(第3321号)

キャパとゲルダ ふたりの戦場カメラマン 書評
キャパの影となり光となったゲルダ
二人三脚、あるいは背中合わせに一体となって

キャパとゲルダ ふたりの戦場カメラマン
著 者:マーク・アロンソン、マリナ・ブドーズ
出版社:あすなろ書房
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 ロバート・キャパ。伝説の戦場カメラマンの名は不朽の記憶だが、恋人だったゲルダの名は、とかく忘れられかける。

第二次大戦前夜、その前哨戦ともいえるスペイン内戦が始まった直後から渦中に飛び込んだ若い二人は、二人三脚のようにあるいは背中合わせに一体となって、それぞれのカメラで撮り続けた。

本書は、二人の出自から出会い、戦場へと駆り立てた切迫感を、丁寧にひもといていく。二人が撮った写真の状況説明や検証とともに、スペイン内戦の経過や国際情勢についても解説が続き、ヨーロッパをとりまくファシズムの台頭拡大をつづる。ルビが多い記述は、訳者の意図かどうか、「戦争を知らない子どもたち」に伝えたい青春物語とも読んだ。

二人が写真を撮るきっかけは、生きるためだった。ユダヤ人であることが、生きている危険につきまとわれた、一九三〇~四〇年代のヨーロッパ。ハンガリー出身の十九歳の青年「アンドレ・フリードマン」と、ドイツ出身で二十一歳の「ゲルダ・ポホリレ」は、パリで出会った。写真を撮ることが今日の糧となる生活に、ゲルダは新しい名前を二人につけてデビューした。ロバート・キャパとゲルダ・タローである。

スペインに入って間もなく発表されたのが「くずれおちる兵士」だった。狙撃されて仰向けに倒れた白い服の民兵の写真は、内戦を象徴する一枚となって、キャパの名を不動にする。しかし、この写真については、いくつかの疑問が出され、入念な検証をまとめた沢木耕太郎氏などのゲルダが撮ったものだという推定も含めて、後々かけめぐる。

戦場の臭いが漂う写真は、新聞のフロントページを飾り、キャパのカメラマンとしての評価は定着する。二人は、内戦が拡大するスペイン各地を、反ファシズムの共和国軍とともに転戦する。戦場のただなかで兵士を追いかけ、戦火に苦しむ人々をとらえ、「革命」の勝利に酔い、敗北と裏切りの無残な仕打ちに打ちのめされたスペインの人々をとらえた写真群は、戦争の世紀を鮮やかに記録するものとなって、伝わる。

時の流れの中で生まれた二人の心の葛藤。自立したいというゲルダの意思に焦点を当て、写真の裏側にプリントされる「キャパ&タロー」の印に、その揺れを重ねる。

そこには、キャパの影となり光となったゲルダの存在が「対等」な形で浮かび上がってくる。

ゲルダは戦場でキャタピラに轢かれて死んだ。一九三七年七月のこと。二十六歳だった。キャパは、その衝撃から立ち直り、第二次大戦の最前線でシャッターを押して戦場写真家としての伝説を生み重ねていった。ノルマンディー上陸作戦、パリ解放……、二〇世紀の歴史が一枚ごとに躍動する。

そして、世界中を戦場とした大戦争が終わり、キャパは日本を経由してインドシナ戦争に従軍し、北部ベトナムで地雷に触れて、亡くなった。四十一歳だった。
歴史を記録する写真は、「戸籍」がなければ価値がない。キャパが戦火から守ろうとした二人の写真群が、第二次大戦勃発直後から行方不明になっていた。四千五百枚の撮影記録とともに消えたネガが、半世紀を超えて、ヒョッコリ還ってきた。詳しくは本書にゆずろう。本書は、その「発見」されたネガと記録をなぞって、膨大なキャプションをつけるように、二人の足跡を追って完成している。

評者はかつて、毎日新聞社で「一億人の昭和史」シリーズの編集を十年間手掛けたが、これらの膨大な写真群と原簿もまた、戦争直後から地下に秘匿されたものが、三十年後に陽の目を見た。そこにも、ネガそのものが持つパワーが、もう一度生命を吹き込ませるのではないかとおもうほどの、奇跡ともいえる物語があった。命がけで撮った写真群は、意志を持っているに違いない。(原田勝訳)(いわお・みつよ=ジャーナリスト)

この記事の中でご紹介した本
キャパとゲルダ ふたりの戦場カメラマン/あすなろ書房
キャパとゲルダ ふたりの戦場カメラマン
著 者:マーク・アロンソン、マリナ・ブドーズ
出版社:あすなろ書房
「キャパとゲルダ ふたりの戦場カメラマン」は以下からご購入できます
「キャパとゲルダ ふたりの戦場カメラマン」出版社のホームページはこちら
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