タイタニック号の若きヴァイオリニスト それでも僕は弾き続ける 書評|クリストファー・ウォード(英宝社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年12月28日 / 新聞掲載日:2020年1月3日(第3321号)

タイタニック号の若きヴァイオリニスト それでも僕は弾き続ける 書評
船上楽団員の遺族の物語
運命に導かれて生きる、時代も国境も超えた人の常

タイタニック号の若きヴァイオリニスト それでも僕は弾き続ける
著 者:クリストファー・ウォード
出版社:英宝社
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 「タイタニック号」ときくと、ジェームズ・キャメロン監督の映画『タイタニック』(一九九七)を思い出される人も多いのではないだろうか。一九一二年、当時注目を集めたイギリスの豪華客船タイタニック号がニューヨークに向かう処女航海の途中、氷山と衝突して海に沈み、乗船した二二〇〇人のうち一五〇〇人弱が亡くなった、という史上稀にみる大惨事を映画化したものだ。

さてこの映画の中で、沈みゆく船上で音楽家らが賛美歌を演奏するシーンを覚えておられるだろうか。本書『タイタニック号の若きヴァイオリニスト』は、船上の楽団員の一人であったジョック・ヒュームについて書かれた物語であり、著者クリストファー・ウォードはジョックの孫にあたる人物である。若くしてこの海難事故により亡くなった祖父について、彼に出会ったこともない孫のウォードが語るのは、途方もない執念をもって取り組んだであろう調査結果としてのファミリー・ヒストリーだ。ジョックの出生や家庭環境、そしてジョックが亡き人になってからの遺された家族の物語である。

本書からは、かつての時代特有の空気感、そして現代にもつながる普遍性という、相反する二つの要素が絶え間なく滲み出ており、本書の面白さはそこにあるのかもしれない。ジョックの出身地スコットランドでは当時すでにピアノの流行は終わっており、誰も彼もがヴァイオリンを弾いていたこと、ジョックの父親がどのように音楽で生計をたてていたかがつぶさに語られている点など、当時の音楽状況を知る上での興味深い記述が随所にみられる。

他方、現代にもつながる普遍性については、読者は本書を読む際に終始一貫して感じることになるだろう。第一次世界大戦前夜にあたる一九一〇年代初頭、タイタニック号の姉妹号であるオリンピック号の「一等客室の乗客名簿は、富豪や有名人のいわば国際版名士録だった」というが、当然のことながらタイタニック号も同様の状況であっただろう。絶対に沈むことはない、とされた豪華客船に乗り込んだ名士や雇われ音楽家、船員ら総勢二二〇〇余の、銘々の果たすべき役割や日課が、船の沈没という非常事態に際して急に変容する。脱出に際しては、当時としては新しい基準であった女性や子どもを優先させて救助するなどの方針もとられたが、全体で徹底されたわけではなく、一等客室の男性は三等客室の子どもよりも多く助かったほか、この船を所有していたホワイト・スター・ラインの経営者ブルース・イズメイも無事に脱出している。事故の後も、事故に対する会社の対応、社会の対応、遺族の反応は、いずれも昨今おこった災害や事故で聞いた話に通じるような内容といえる。

そして、これはこの著書の最も重要で特徴的な点といえるだろうが、家族がこの事件に巻き込まれたことで遺族にどのような波紋が広がることになったか、が登場人物一人ずつにスポットライトをあてて具体的に描かれている。その影響はこの事件より後に生を受けた者にまで及ぶ。なるほどジョックの父親アンドリューはずる賢い嫌な奴で、ジョックがタイタニック号の事故に巻き込まれず、無事に生きていたとしても家庭内の喧嘩は絶えなかったかもしれない。だが、彼の息子の死はこの父親にも、そして兄弟姉妹にも大きな影を落とし、しまいには妹ケイトは新聞を賑わす事件まで起こしてしまう。この物語の実在の登場人物たちそれぞれが、運命に導かれ(振り回され)ながら共に強烈な個性を放って生きている様子は、現代においても、どこにでもいる人たちとも通じるようなところがあり、タイタニック号の事故という特殊な事例であると同時に、時代も国境も超えた人の常が本書には描かれている。(小笠原真司訳)(わしの・あきこ=ピアニスト・福岡県立大学准教授)
この記事の中でご紹介した本
タイタニック号の若きヴァイオリニスト それでも僕は弾き続ける/英宝社
タイタニック号の若きヴァイオリニスト それでも僕は弾き続ける
著 者:クリストファー・ウォード
出版社:英宝社
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