日本社会の周縁性  書評|伊藤 亜人(青灯社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年12月28日 / 新聞掲載日:2020年1月3日(第3321号)

日本社会の周縁性  書評
周縁的日本人の美的感覚のすばらしさ
澄明な「審美眼」で韓国社会と日本社会を比較する

日本社会の周縁性 
著 者:伊藤 亜人
出版社:青灯社
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 十一月に、この本の著者である伊藤亜人氏と仙台で対話をした。同じ朝鮮半島を研究しているという共通点はあるが、伊藤氏は文化人類学、わたしは思想である。アプローチも世界観も、全然違う。だが一点だけ、わたしが「日本人が朝鮮半島に対する場合、いつも贖罪的・道徳的な視線を持たなくてはならない、というのはおかしい」と主張したことに氏は同意してくださったのではないか、とわたしは勝手に思っている。「美という観点で朝鮮半島を見つめたい」とわたしが語ったことに対して、伊藤氏は否定しなかった。それには背景がある。伊藤氏の血筋には、美術家や民藝の祖霊たちがいるのである。

だからなのだ、ものを見る目がこれほど研ぎ澄まされているのは。ものとひとが関わる文化や社会への洞察が、一種の祈りのように澄明である。「いや、わたしの学問はそんなウェットなものじゃなくて、もっと客観的だよ、小倉さん」と伊藤氏はいうかもしれない。だがわたしの目には、伊藤氏の文化人類学は、祈りのような情念を宿した美の言説のように思える。

その澄み渡った一種の「審美眼」によって、主に韓国社会との比較という方法論で日本社会を語ったのが本書だ。文章は伊藤氏の旨とする平易なものだが、これほどまでの認識の高みに至った日韓比較論は、近年ほかに見ないと断言してよい。

そもそも日本社会を、西洋社会との比較や特殊論、本質主義などで把握しようとしてみても理解できない。似ているようで異なる韓国社会との比較がもっとも効果的である。たとえば『縮み志向の日本人』の李御寧氏が指摘したように、西洋と比較して日本社会には「甘え」という特殊な関係性がある、というだけでは日本のことはわからない。韓国にも「甘え」はあるからだ。日韓の「甘え」の異同を正確に把握してこそ、日本社会の特質が明確になる。

著者によれば、日本社会の特徴は非体系性・非論理性・多元性・包括性・持続性・柔軟性などにまとめられる「周縁性」である。この概念にゆたかな内実性・洞察性を与える重要な役割を果たしているのが、「韓国との比較」なのだ。たとえば韓国社会には「地域」という概念が稀薄であると著者はいう。これは主体性・人間中心性・中央集権制とともに、「気」という普遍的な概念によって空間を捉える傾向が韓国では強いためだとされる。具体的なものへの関心が中心となる日本とはまるで異なる世界観なのだ。

伊藤氏の概念は、単に現実を説明するだけで終わらない。論理体系を忌避し、共同体志向で、責任という概念があいまいな周縁的日本が、どのようにして朝鮮を植民地統治したのか、その問題点はなにか、という指摘も鋭い。だが氏がほんとうに語ろうとしたのは、「物との関わりを通して、具体的な実践を優先し、持続的で経験と蓄積を尊重し、事物を多元的・包括的に捉える」周縁的日本人が持つ「美的な感覚」のすばらしさなのではないか、と思う。
この記事の中でご紹介した本
日本社会の周縁性 /青灯社
日本社会の周縁性 
著 者:伊藤 亜人
出版社:青灯社
以下のオンライン書店でご購入できます
「日本社会の周縁性 」出版社のホームページはこちら
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