「国民料理」の形成 書評|西澤 治彦(ドメス出版)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年1月11日 / 新聞掲載日:2020年1月10日(第3322号)

「国民料理」の形成 書評
最先端の知見を提示
歴史的な実態を正面から論じる

「国民料理」の形成
著 者:西澤 治彦
出版社:ドメス出版
このエントリーをはてなブックマークに追加
 平均的な日本人の読者が「国民料理」という言葉をみたときに、その意味を感覚的に理解することは、決して難しくないだろう。しかし、この言葉が指すものを具体的に考えてみると、その具体的な内容が明確化しにくく、またこの概念自体もいまいち明瞭ではないことに、おそらく気付かれるであろう。本書は、その「国民料理」なるあいまいな概念について、主にベネディクト・アンダーソンの『想像の共同体』のナショナリズム論を基にした理論的整理と、各国の実際の料理・食文化の形成の歴史を照らし合わせることにより、その歴史的な実態を正面から論じようとした意欲的な研究である。

本書は「国民料理」という問題を議論するうえで、いくつかの新たなアプローチを採用している。一つは、「国民料理」という概念自体に対して、ナショナリズム論に基づく理論的な整理を試みていることである。これにより、本書は「国民料理」という視野から、国民国家という枠組自体の歴史的なありかた自体を問い直すことに成功している。二つ目に、本書では「国民料理」なるものを固定的・静態的なものとして捉えず、歴史的に形成された動態的なものとして捉えている点である。これにより、本書は各国の「国民料理」なるものが単一の形式のままで発展したのではなく、むしろ多様性を有したまま歴史的に形成されてきたこと、またいくつかの事例ではその料理が特定の国や地域を超えて展開・発展してきたことを明らかにしている。三つ目に、日本における「国民料理」なるものについて、料理実践と学術的分析の双方の専門家の視点から整理したことは、本書が日本語で書かれたことに対して明確な付加価値を与えている。総合して、本書は「国民料理」なるものの形成の歴史的な過程について、国民国家の時代としての近代史という広範な視野に立ち、現時点での最先端の知見を提示しているといえる。

加えて、評者から見た本書の大きな魅力を、もう一点あげておきたい。それは、本書が前述した議論をなんらかの結論として押し付けているのではなく、むしろさらなる議論への開かれた可能性を提示している点である(巻末の総合討論を見るに、このような方向性は編者・執筆者たちが明確に意図したものであろう)。たとえば、本書ではナショナリズムに関する理論的な整理において、主にアンダーソンの『想像の共同体』を参照している。しかし、本書のアプローチと議論は、より広大な射程を持ちうるものであろう(評者は、アンダーソン『比較の亡霊』における遠距離ナショナリズム(すなわち、国家とその領域外に居住する移民・難民としての国民という関係性)の問題や、ロジャース・ブルーベイカーによる政治的制度としてのナショナリズム論と「国民料理」との関係性などについて想起した)。

その意味で、本書を一読してその知見を学ぶことはもちろん有益であろうが、さらにそこから「国民料理」とその背後に存在する国民国家という枠組の歴史性という問題を自ら考えようとする読者に対して、本書は最も有益な読書体験を提供するであろう。
この記事の中でご紹介した本
「国民料理」の形成/ドメス出版
「国民料理」の形成
著 者:西澤 治彦
出版社:ドメス出版
以下のオンライン書店でご購入できます
「「国民料理」の形成」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
人生・生活 > 食・料理関連記事
食・料理の関連記事をもっと見る >