藤森照信のクラシック映画館 書評|藤森 照信(青幻舎 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年1月11日 / 新聞掲載日:2020年1月10日(第3322号)

藤森照信のクラシック映画館 書評
本邦初、建築としての映画館の本
映画館が誕生した頃の手触りが残っているような

藤森照信のクラシック映画館
著 者:藤森 照信
写真家:中馬 聰
出版社:青幻舎
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 映画の上映中、スマートフォンを見てしまう若者が増えている。そんなニュースが話題になった。劇場の暗闇に身を委ね、スクリーンの世界に没頭する。これから先、そんな体験は時代遅れのものになってしまうのだろうか?

「映画と映画館について考えようとすると、誰もが、少なくとも映画の全盛期に、正確にはテレビ出現以前に生まれ育った世代は自分の体験から話したくなるだろう」。本書の冒頭で、藤森照信はそう記す。映画の全盛期である昭和三十年代前半には、全国に七千館もの映画館があったという。現在、日本全国にある高等学校の総数がおよそ五千校だというから、全国津々浦々に相当な数の映画館があったのだ。それが今、五百館弱にまで減ってしまった。

これまで数多の映画史が編まれてきたが、建築としての映画館をテーマとする書籍は本邦初だという。江戸の時代にまで遡り、劇場という空間がどのように設計され、時代とともに移り変わり、映画という新しい娯楽を受容するためにどのように設計されてきたのか、体系的にまとめられている。それと同時に、映画館によって東京の都市空間がどのように変化したのかも窺い知ることができる。

だが、何より印象深いのは地方にある映画館だ。巻頭と巻末には、写真家・中馬聰が撮影した、各地にかろうじて残る映画館の姿がカラーで掲載されており、藤森照信も現地を訪ね、館主と対話する。そのひとつが愛媛県内子町にある「旭館」だ。そこにはまだ、日本に映画館が誕生した頃の手触りが残っているように思える。

日本初の常設映画館が建てられたのは明治の終わり、浅草六区だ。当時の映画館は、明治初期の「擬洋風建築」を起源とするものだったという。文明開化の時代、大工の棟梁たちは見様見真似の洋風建築を作り上げ、それらは「擬洋風建築」と呼ばれた。

「旭館」が建設されたのは明治ではなく大正後期だが、その息吹を感じさせる。内観は昔ながらの芝居小屋といった趣きを感じさせるが、外観は和とも洋ともつかぬ独特の佇まいだ。「旭館」も地元の大工棟梁によって設計・施工されたが、ドイツ壁と木の共存に、「もしかしたらドイツのハーフティンバーの木造建築を参照したのかもしれない」と藤森は分析する。映画という新しい娯楽が到来したときに、「行方のわからぬ真空状態の中で、未知の状態への憧れを推進力として湧き出たようなイメージが、二階建てのさえない町並みの中に建っている」と。

「旭館」の姿を見ていると、不思議と懐かしさをおぼえる。私は昭和五十七年生まれで、物心がつく頃にはテレビはおろか、ビデオデッキも普及していた。だから私は、映画館に対して特別な思い入れを持ち合わせていない。でも、「旭館」の姿には、まだ見ぬ映画に対する興奮が詰まっているようで、ノスタルジックな気持ちに駆られてしまう。
この記事の中でご紹介した本
藤森照信のクラシック映画館/青幻舎
藤森照信のクラシック映画館
著 者:藤森 照信
写真家:中馬 聰
出版社:青幻舎
以下のオンライン書店でご購入できます
「藤森照信のクラシック映画館」出版社のホームページはこちら
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