そのうちなんとかなるだろう 書評|内田 樹()|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
更新日:2020年1月18日 / 新聞掲載日:2020年1月17日(第3322号)

内田樹著『そのうちなんとかなるだろう』  
明治大学 藤井 太雅

そのうちなんとかなるだろう
著 者:内田 樹
出版社:
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 本書で内田が繰り返し訴えるのは、「やりたいことは、とことんやる。やりたくないことは、やらない。そうやって直感的に生きていれば、辿り着くべき場所に辿り着く」ということである。

内田は幼い頃から好き嫌いがはっきりしていた。小学生でいじめに遭ったときには登校拒否をして転校。受験勉強がしたくなくて高校を中退をして計画的に家出。それだけだとただの「ワガママ小僧」のように思えるかもしれないが、これは「嫌なことはしない」という強い意志を貫いた結果なのだ。また、内田の「嫌なことはしない」という精神は、「好きなもの」にのみ時間や労力を費やしたいという思いに起因している。映画や小説といった様々な文化に触れ、大学でフランス語を学び、それからフランス文学者になる。子供の頃から武道に強い憧れを抱き、剣道や空手などのいろいろな武道の道場を訪れる。そして大学を卒業してようやく合気道と、その師である多田先生との出会いを果たし、内田は武道家になるのである。

内田は自分の人生に関して、「特に後悔していることはない」と述べる。自分の身体的な気分の良さを揺るがない基準にして、ふつうに自然な流れに従って生きる。やりたいことはとことんやる、やりたくないことはやらない。直感を優先すれば、右するべきか左するべきかという決断や、人生をリセットするなどという無理な行動をとらずに済む。そういう生き方こそが理想的だと言うのだ。

本書を読んでいる途中で、内田の言うような「身体的」な生き方は、どうも私には受け入れ難いもののように思われた。受け入れ難いというより、頭では「理想だな」と憧れてもいざ実践するのは怖い、という方が正しい。絶賛「就活中」である私にとっては、「直感」という不可視なものに自分の人生を委ねるというのは、とても怖いのだ。仕事を決める際には、客観的にも納得できるような「志望動機」が必要で、その動機が「なんとなく」とか「成り行きで」というわけにはいかない。「やりたいことだけやっていて、やりたくないことはとことんやりませんでした」なんて、面接で言えるわけもない。

しかし最後まで読んでみると、私の考えは少し変わった。そうやって、なんとか客観的な立場を想定して必死に掻き集めた動機で入った会社で死ぬまで働いて、私は本当に後悔しないだろうか。「やりたい、やりたくない」という主体的な直感を無視し、自分を置き去りにして入った会社に入った後、おそらく何十年も続く「会社生活」に耐えられるのだろうか。

「仕事」と「生きる」ということがあまりに自分の頭の中で融合しすぎていることに気づかされる。「生きている」という自然な営みの中に「仕事」という営為がその一環として存在しているのであって、生きることは仕事ではないのだ。そう考えると、私はもっと自然に、気楽に、職業を決めてもいいのではないかと思えてくる。膨大に目に入ってくるデータも、「安定した職業に就いた方が堅実だ」という世間の声も無視して、まずは目を閉じて、自分がどう生きたいのか、ぼんやりと鈍っているその内側の直感を掴むことから始めなければならないのではないか。

あとがきにはこんなことが書いてある。

「ただし、心と直感に従うには勇気が要る。僕がわが半生を振り返って言えることは、僕は他のことはともかく『心と直感に従う勇気』については不足を感じたことがなかったということです。」
その一瞬の勇気をいま持つべきなのだと、この本は小さな背中を押してくれた。
この記事の中でご紹介した本
そのうちなんとかなるだろう/
そのうちなんとかなるだろう
著 者:内田 樹
出版社:
「そのうちなんとかなるだろう」は以下からご購入できます
「そのうちなんとかなるだろう」出版社のホームページはこちら
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