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ジャン・ドゥーシェ氏に聞く「映画/映画作家/映画批評」
更新日:2020年1月20日 / 新聞掲載日:2020年1月17日(第3322号)

連載 「平均的観客」のための映画   ジャン・ドゥーシェ氏に聞く 137

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山形国際ドキュメンタリー映画祭にて審査委員長を務めた際(1991年)
HK 
 ケン・ローチの作る社会派映画とファスビンダーのそれとでは何が異なるのでしょうか。
JD 
 全くもってローチとファスビンダーは異なります。ケン・ローチは、おそらく社会に対して何か考えがあるのでしょう。しかしながら、彼の持つ考えとは、社会がこのようなものであれという押し付けがましいものです。一方で、ファスビンダーは社会を見る、それよりも、まず感じることから始めています。ケン・ローチは、彼が問題としたい社会の当事者となることはなかったように思います。ファスビンダーは、自分たちに関わる問題こそを出発点としていました。なので、同じように社会について語っていても、全く異なった結果が生み出されているのです。
HK 
 今のローチについての説明から、ジャン・オランシュやアンリ・ジャンソンについて、『カイエ』が非難した時のことを思い出しました。長年にわたり対立構造が変わっていないようですね。
JD 
 その通りかもしれません(笑)。しかしながら映画を取り巻く状況は大きく変わっています。オランシュ、ジャンソン、(ピエール・)ボスト、(ミシェル・)オーディアールのような脚本家たちは、本当にフランス映画業界を支配し悪い影響を与えていました。彼らにとって、世界は彼らの映画のようであり、映画とはそのようなものであり、観客はそのようなものを好きでいなければいけなかったのです。
HK 
 「平均的フランス人」という曖昧な考えに基づいていると、七〇年代八〇年代まで非難が続きました。
JD 
 その考え方です。私は最近のイギリス映画については詳しくないので断言はできませんが、ケン・ローチはフランスの脚本家たちほどの大きな影響を与えられていないと思います。
HK 
 おそらくケン・ローチの映画は、見た直後ぐらいまでは影響を与えることができていると思います。「世の中にはこんなに不幸な人がいるのか」といった形でです。おそらく彼の映画の主な観客層は小ブルジョワだと思いますが、そこで消費されるだけで終わってしまっている。だから悪いのは決してローチなのではなく、観客の側の問題でもあるはずです。いま思ったのですが、彼の語る物語は非常に古典的なイギリスの物語ではないでしょうか。おおよそが抑圧される人々の話ですが、最終的に少しの救済が入ります。
JD 
 あなたのいう通りです。ローチの映画には、ディケンズやその時代の小説家の影響を見ることはできます。自分よりも不幸な人々の生活を見ることを楽しんでいるのです。しかしながら、私は彼の映画が好きにはなれません。決して悪いものではないと思います。同時に、良いものだとも思いません。それを楽しんでいる人がいるのならば、彼らにとって残念なことだと思います。結局のところ、私は彼の映画をわざわざ語りたくありません。私の興味を引くことはまだ他にあります。彼については、これで終わりにしましょう。
HK 
 それではラース・フォン・トリアーに話を戻します。
JD 
 ええ。彼の方が比べようもなく面白い。
HK 
 いま話した「平均的観客」に向けた映画にも関わるのですが、トリアーの映画は新作の度に物議を醸しています。どこかで彼の映画に対して嫌悪感を持つ人がいますね(笑)。
JD 
 今でもですか。
HK 
 新作(『ハウス・ジャック・ビルト』)も、子どもを殺すシーンや女性に対する暴力がメディアで反響を呼んでいました。それに対して、社会問題に触れているつもりの映画やケン・ローチの映画は大きな議論――それよりも反感を買うと言った方がいいかもしれませんが――を引き起こすことはありません。トリアーは、前作の『ニンフォマニアック』も同様ですが、意図的にスキャンダルを引き起こすようなことを語っています。それ以前にも九〇年代、デンマークで女性向けのポルノを作ったり、フェミニストに大きく非難されたりと、スキャンダルと結びついた映画作りをしています。
JD 
 今でもそのようなスキャンダルを引き起こせるのは素晴らしいことだと思います。
HK 
 ポランスキーも新作の度に問題になっています(笑)。
JD 
 ええ……しかし彼は、望んで問題を起こしているわけではありません。

   〈次号につづく〉
(聞き手=久保宏樹/写真提供=シネマテーク・ブルゴーニュ)
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