kaze no tanbun 特別ではない一日 書評|西崎 憲(柏書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年1月18日 / 新聞掲載日:2020年1月17日(第3323号)

kaze no tanbun 特別ではない一日 書評
〈短文〉の企み
仕掛けられ、響き合う17色の大輪の花火

kaze no tanbun 特別ではない一日
著 者:西崎 憲
出版社:柏書房
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 西崎憲が企む〈短文〉アンソロジーシリーズ第1弾。我妻俊樹、上田岳弘、円城塔、岡屋出海、小山田浩子、勝山海百合、岸本佐知子、柴崎友香、高山羽根子、滝口悠生、谷崎由依、西崎憲、日和聡子、藤野可織、水原涼、皆川博子、山尾悠子ら17色の個性が凝縮された作品を封じこめた本を開けば、冬空に大輪の花火が咲く。
「ようやく手をつき振り向きましたが、崩れかけた石神殿の空漠にただ石柱の列があるばかり。空漠、ひとり打ち捨てられた空虚、日陰から見上げれば高みへと墜落していきそうな真っ青な空」「台所いっぱいに広がって、壁を這いのぼりはじめている〈ねんきん〉に向かって、ありがとうね、と言ってみた。〈ねんきん〉は心なしか輝きを増して、ぷるんと小さくふるえたように見えた。」「わたしは、端っこのポールにくっついて片腕を巻き付け、ポールのふりをした。自分はポールだ、と自分に言い聞かせた。赤信号の残り時間はまだ九十秒もある。」「晩鳥のことを頭から払って家の中に入ると、男を縛めていたダクトテープが床に残っていた。千切られて獣毛だらけで、猛獣の檻のような臭いと檸檬の芳香が混ざり合っている。」「誰の記憶にも残っていないその日のことを、少しも思い出さないまま、藍原慈郞は、いつもより遅くなってしまったことを心中で詫びながら、自転車を漕いで、息子たちを迎えに保育園へと向かって急いだ。」「呼ばれた人は名前のほうへ歩いていってそれきりもどってこない。名前がきみを呼んでいるけど、きみにはそれが聞こえていない時間が人生なんだね、と誰かが云った。」「文章に対しては、正しい、正しくないを考えることができ、「は印刷可能、は印刷可能」という文章は、「は印刷可能」が印刷可能であるときに正しい。」「歩きづらさを感じていたので、床に腰を落とし、右の靴下を脱いだ。二つの丸い欠片になった小指がぽろりぽろりと落ちた。気づいた一羽が素早く嘴でつつく。」「僕は子供の頃、修羅を筆箱に入れて持ち歩いていたくらいだから/たまに消しゴムと間違って摑んでノートにごしごし/あれ? いくら経っても消えない?/不思議に思ってよくみるとそれは真っ黒な修羅」「シシーという音だけの名前と、西太后という漢字の意味を伴う名前では、こちらのほうが情報量が多いと感じるものの、せいたいごうと言ったところで英語でも中国語でも伝わらない。わたしはなんとなく負けた気がする」「もう一人の小出薫とYさん、とうてい身近とは言えない、しかし他人とは思えない二人の死のことを、私はおりに触れて思い出す。二人はどこか遠くで違う日に生まれ、私とはなんの関係もなく生き、ほんのちいさな、誰にも見えないひっかき傷くらいの強い印象を残して去っていった。」「硬くて自足していて抜きがたい特色があるもの。その中には誰も入っていけない、表面の複雑な手触りがあって、目でなぞるようにして愛でるもの。」「それにね。わたしの方でも、こうやって並べている文章の全てを理解しているわけでもないんですよ。だってそうじゃあありませんかね。論理学の本に並ぶ文章が、論理学を理解しているなんてこと信じられますか」「藤の花柄の包み紙をたたんで大切にとっていたのに卵煎餅の匂いがしみていたせいかある時ネズミにかじられていて泣く泣く捨てたこと、その煎餅店に同級生がお嫁に行ったがもうただの貸しビルになっていること」「すずめが大きいのではなく、私が小さいからそう見えたのだ、と立ち上がったときに顔や体に受けた風の強さでやっと気づいた。私は今日は、帰ってパンを食べて、それ以外に特になんの予定も用事もない。ドン。」「店は動く壁紙みたいにして試合中継を流しっぱなしにしている。」「白線は鯱の背に張り付き革底の靴では踏ん張ることができない。靴を脱ぎ、靴下を脱ぐ。スカートの内側には飛沫が上がってきて、おしっこがしたくなる。」「「ほら、いつもどおりだろう」顔を私の耳元まで下げて、夫はそう言った。」「たとえばひげとか威厳とか、そんなものもない。体も細くてすっきりしている。けれど頭に載せてはいないけれど、王冠くんは宝石つきの冠を持っている。」

こんなふうにしか書評の書けない、書評子泣かせの一冊!
この記事の中でご紹介した本
kaze no tanbun 特別ではない一日/柏書房
kaze no tanbun 特別ではない一日
著 者:西崎 憲
出版社:柏書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「kaze no tanbun 特別ではない一日」出版社のホームページはこちら
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