断片的なものの社会学 書評|岸 政彦(朝日出版社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2020年1月18日 / 新聞掲載日:2020年1月17日(第3323号)

断片的なものの社会学 書評
岸政彦著『断片的なものの社会学』

断片的なものの社会学
著 者:岸 政彦
出版社:朝日出版社
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 我々の世代は、「ゆとり」「さとり」「つくし」などと称されるらしい。マニュアルから外れた臨機応変な対応ができない、何事もコスパ重視、情熱やハングリー精神がなく没個性的、と上の世代から批判される世代だ。残念ながらこれらは私にすべて当てはまっている。マニュアル通りにやればとりあえず上手くいくし、人間関係や恋愛に必死になるのは何だか無駄な気がする。周りに同調して、真面目に確実に生きるのが得策じゃないか。いくら上の世代から批判されようと、のらりくらり生きていければまあいいか、などと考えていた。

しかし、そんな私の考えは、『断片的なものの社会学』を読んだことで少し変わっていった。この本は「社会学」といっても決して難しい文章ではない。社会学者である著者からしても理論的な分析が不可能で、自らの解釈をすり抜ける、いわば「かけがえのない無意味な物語」を語っており、エピソードの一つ一つはエッセイのような、あるいはドキュメンタリー映画のような魅力がある。

本文の中に、一般人へのインタビューがそのまま文字に起こされている章がある。例えば、20年間大阪の路上でギターを弾き続ける80歳の男性へのインタビューでは、どういう経緯で今このような生活をしているのか聞き出しているのだが、男性の方言がきついうえに、ところどころ括弧で文章を補ってある部分もあり、かと思えば唐突に「通りすがりのおっちゃん」が男性の煙草を取っていったりする。創作の物語ではありえないラフさとオチのなさである。しかし何故かこれが面白いのだ。全く知らない一般人のインタビューがこれほどまでに魅力的なものだとは思いもしなかった。他にも、一般的に社会的マイノリティといわれる人々(例えば、同性愛者、在日外国人、障がい者、ホームレスなど)のエピソードが断片的に語られるのだが、そのどれもが、「幸せ」「不幸せ」とか、「良い」「悪い」というような二項対立的な考え方では処理しきれないエピソードばかりである。それを目にし、今まで私が普通だと思っていたこと、常識だと思っていたことが急に陳腐なものに感じられた。私の中の普通や常識は、所詮私の中だけのものなのだと痛感した。

著者があとがきで述べている通り、この本は「とらえどころもなく、はっきりとした答えもない、あやふやな本」である。この本に「きまり」や「損得」はない。そもそも他人や社会そのものは、かけがえのない無意味な断片が集まって形成されているのだから、そんなものにマニュアルなどあるはずもなかった。著者からポンっと投げられた断片的なエピソードによって自然と視野が広がっていく感覚は不思議だ。そして、他者を知ることは自分を知ることであると感じた。私には私の断片があり、それこそが個性である。そう気づけたからには、「ゆとり」「さとり」「つくし」世代を生きる、豊かで思慮深い若者になりたいものだ。
この記事の中でご紹介した本
断片的なものの社会学/朝日出版社
断片的なものの社会学
著 者:岸 政彦
出版社:朝日出版社
以下のオンライン書店でご購入できます
「断片的なものの社会学」出版社のホームページはこちら
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