時空旅行者の砂時計 書評|方丈 貴恵(東京創元社 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年1月18日 / 新聞掲載日:2020年1月17日(第3323号)

時空旅行者の砂時計 書評
新人が挑む時間SFミステリ
「時間」そのものが謎解きパズルのピース

時空旅行者の砂時計
著 者:方丈 貴恵
出版社:東京創元社
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 タイムトラベル、タイムスリップ、タイムループ。時間を遡るSFの趣向を謎解きに活かしたミステリは、これまで多く書かれてきた。例えばジョン・ディクスン・カー『ビロードの悪魔』は悪魔と契約を交わした歴史学教授が、中世に遡り事件の謎を解こうとする歴史SFミステリだ。最近では山本巧次が〈八丁堀のおゆう〉シリーズでタイムトラベルものに、科学捜査ものを掛け合わせた風変わりな物語を描いている。このように時間SFとミステリを融合させた作例は別段珍しいものではなく、当然ながら後進の作家は新たな切り口が求められることになるのだ。

その時間SFミステリに挑んだ新人がいる。

『時空旅行者の砂時計』でデビューした方丈貴恵だ。同書は第二十九回鮎川哲也賞新人賞受賞作である。

物語はフリーライターの加茂冬馬の妻、伶奈が集中治療室で重篤の状態になっている場面から始まる。伶奈はかつて大富豪の一族と呼ばれた竜泉家の血縁に当たる。その竜泉家には呪いがあると噂されていた。

一九六〇年、N県の詩野という土地にある竜泉家の別荘地で、その親類と関係者が陸の孤島に閉じ込められ、次々と命を落とす事件が起きた。一連の出来事は「死野の惨劇」と呼ばれるようになり、事件以降も生き残った竜泉家の一族が三五歳になるのを待たずして死んでいったのだ。そして冬馬の妻も今、命を落としかけている。

何とかして伶奈を救うことは出来ないのか。頭を抱える冬馬のスマートフォンに、マイスター・ホラーと名乗る謎の人物から着信が入る。マイスター・ホラーは地面に転がる砂時計を拾うように冬馬に指示する。その砂時計は、「拾うと願いが一つだけ叶えられる」という都市伝説に出てくるものとそっくりだった。砂時計を拾った冬馬は信じられない出来事に遭遇する。「死野の惨劇」が起こった一九六〇年に冬馬はタイムトラベルしていたのだ。

かくして冬馬は竜泉家の呪いを防ぐために、「死野の惨劇」の真相を暴こうとする。謎解きの鍵となるのは時間旅行のルールである。冬馬が事件の謎を解くためには事件当時に起こった事実だけではなく、自分が置かれているタイムトラベルという特殊な状況も考慮しなければいけない。「時間」そのものが謎解きパズルを完成させるためのピースとなっているのだ。

しかし、ルールを熟知したからといって謎が全て解けるわけではない。幾重にも張り巡らされた罠をかいくぐり、真相にたどり着くためにはルールを理解した上で思考のもう一捻りが要求されるのだ。ここが時間SFミステリとしての本書の新しい点である。

もちろんデビュー作ゆえの欠点もある。一番気になったのは冬馬が時間旅行者である、という設定が、もっと物語を盛り上げる事に貢献しても良かったのではないか、という点である。タイムトラベラーであるがゆえに生じる障壁のようなものが、捜査プロセスにもう少し欲しかった。

とはいえ、先述したように通常の世界とは違うルールを謎解きに用いながら、さらにもうひと工夫を添える点は新人として評価に値するだろう。SF設定を持ち込んだミステリ、或いは異世界を構築して特殊なルールを敷くミステリは正直、飽和状態と呼べるくらいに現在の謎解き小説では書かれているが、その分野に飛び込み、自分なりの「もう一押し」を生み出そうとする姿勢には今後も注目していきたいところだ。
この記事の中でご紹介した本
時空旅行者の砂時計/東京創元社
時空旅行者の砂時計
著 者:方丈 貴恵
出版社:東京創元社
「時空旅行者の砂時計」は以下からご購入できます
「時空旅行者の砂時計」出版社のホームページはこちら
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