メキシコDF テクストとしての都市 書評|柳原 孝敦(東京外国語大学出版会)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

  1. 読書人トップ
  2. 書評
  3. 読書人紙面掲載 書評
  4. 文学
  5. 日本文学
  6. 随筆・エッセー
  7. メキシコDF テクストとしての都市の書評
読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年1月25日 / 新聞掲載日:2020年1月24日(第3324号)

メキシコDF テクストとしての都市 書評
敬服に値する名著
読書とメキシコ好きには堪えられない「読書散策」

メキシコDF テクストとしての都市
著 者:柳原 孝敦
出版社:東京外国語大学出版会
このエントリーをはてなブックマークに追加
 とても面白い本である。特に読書とメキシコが飯より好きな読者には堪えられない「読書散策」だ。冒頭から小言めくが、副題に見える「テクストとしての都市」の「テクスト」の意味がわかりにくく、多くの読者にはぴんと来ないだろう。これは難点だ。実は叢書名なのだそうだが、評者は、この場合の「テクスト」を「典拠とするのに枚挙にいとまがないほど多くの本に書かれてきた」というような意味に解釈した。事実、著者は「テクストとしての都市」を歩くとは、現代の都市を歩きながらにして過去に描かれたその都市を歩くことに他ならない、と書く。また「感じたメキシコを(過去の)テクストに仮託して描写する」とも書いている。
著者はテーマ別に章立てし、各章の散策道に登場する書店、カフェテリア、建物、史跡などについて過去に書かれたさまざまな書物や関連書を挙げ、典拠としつつ追体験したり、新たな意味を探し出したりしている。幾多の知識人、作家、旅人らが書いた本を選んで、著者は散策し瞑想しながら新しい息を吹き込む。そうして取り上げられた過去の書籍は新たに、あるいはあらためて「古典化」する。原著者たちは幸せだろう。西語や西語文学の専門家である著者ならではの乱読と深読みなくしては書けない内容であり、敬服に値する。

「ソカロ 地下から溢れ出る詩情」の章で著者は、メキシコ市中心部にある広大な憲法広場(ソカロ)を歩きながら、アステカ時代、スペインによる征服・破壊期、独立後の現代と、断絶しながら繋がる歴史が地下から表層にかけ層をなしながら生きている歴史的地層のやるせなさや残酷さをする。広場は民衆の生活と意思表示の場であり、民主政治には欠かせない人民と権力の対話の場である。著者は「余談だが」と断りながら、「デモンストレーションが民主主義における正当な意思表示の手段であることも知らず、テロと同一視したりする幼稚な政治家がわが国でのさばってしまうのは、東京の政治の中心に広場が存在しないからではあるまいか。首相官邸前が道路だからではないのか(日本でこうしたスペクタクルが生じるのは皇室の一般参賀だけか)」と、太平洋越しに指摘する。広場の存在の有無は、まさに政治的市民数の大小や成熟度、権力の過剰か否かを物語るのだ。

幾つか気づいた点を挙げれば、「トラテロルコ三文化広場」の章に、「クアウテモク殺戮の現場ともなる(アステカの)大神殿」とあるが、『コルテス書簡集』(法政大学出版局)には、「コルテスはホンジュラス遠征中、クアウテモクらが隠謀を企てたため処刑した」という旨が記されている。場所はユカタン半島の付け根部分で、今日のグアテマラ北部辺りのようだ。時代考証になるが、重要な事実関係なので確認が欲しい。

「セントロ」の章の「英雄少年兵」の史実、および「ラ米塔の着工・竣工年」については再考願いたい。評者は1968年に学生運動の指導者の一人にラ米塔展望台でインタビューしたことがある。さらに肝腎な「メキシコDF」という題名だが、「連邦地区(DF)」の名称は2016年に廃止され、「シウダー・デ・メヒコ(メキシコ市)」に統一されたはず。この叢書の企画が16年以前になされ、「DF」の名称がそのまま受け継がれたのかもしれないが、理由を知りたいところだ。しかし、ここに並べた「苦言」は、本書の価値を一分たりとも損なわせるものでは全くない。本書は名著である。
この記事の中でご紹介した本
メキシコDF テクストとしての都市/東京外国語大学出版会
メキシコDF テクストとしての都市
著 者:柳原 孝敦
出版社:東京外国語大学出版会
「メキシコDF テクストとしての都市」は以下からご購入できます
「メキシコDF テクストとしての都市」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
伊高 浩昭 氏の関連記事
柳原 孝敦 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
文学 > 日本文学 > 随筆・エッセー関連記事
随筆・エッセーの関連記事をもっと見る >