原子力発電世論の力学 リスク・価値観・効率性のせめぎ合い 書評|北田 淳子(大阪大学出版会)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年1月24日 / 新聞掲載日:2020年1月24日(第3324号)

原子力発電世論の力学 リスク・価値観・効率性のせめぎ合い 書評
原発世論という魔物を生け捕る
―脱原発派必読の書―

原子力発電世論の力学 リスク・価値観・効率性のせめぎ合い
著 者:北田 淳子
出版社:大阪大学出版会
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 世論調査なるものが世論操作と政治利用の産物であることは言うまでもないが、世論調査を積み重ね的確に分析することは、民主主義にとって重要である。本書は四半世紀にわたる継続調査データを素材に、原発世論の形成と変容の力学を徹底解剖する。

世論に関する先行研究を踏まえつつ、本書は、原発世論の変動を説明する概念的モデルの構築に挑む。個人の態度決定要因、原発導入以降の社会の反応、原発反対論などから諸要因を抽出し、Emotional factorとしてのリスク、Functional factorとしての効率性、Belief factorとしての脱物質主義という三つの要素に着目し、これらの力学的バランスの磁場において原発世論の相貌と変態を図式的に描写する。意識調査データを科学的に分析する意欲的な試みである。

リスク要素は大事故被害の大きさ、放射性廃棄物、放射能汚染の恐れであり、福島原発事故によってリスク認識が更新されたという。効率性要素は安定供給、経済効率性、環境適合性であり、これらは変化量が小さく、変化の時間軸は緩やかだという。脱物質主義は環境優先であり、福島原発事故により世論は否定方向に大きく変化したが、環境優先の意識は強まっていないという。

三つの要素の連関は、脱物質主義は実質的に固定要素となり、効率性とリスクの二つが変容を条件付ける働きをするという。

国家のエネルギー政策の中枢を支える発電、福島原発事故という巨大過酷事故、原発推進と反対を巡る激しい対立の狭間で、政治も電力会社もメディアも科学者も市民も四方八方から世論の綱引きを繰り広げ、議論は混迷を深めてきた面がある。本書は、第一に継続的データの調査、第二に総合的な分析、第三に量的データと質的データの照合による検証、第四に概念的モデルの構築と検証を地道に進め、原発世論という魔物を生け捕りにしようとする。意欲的な挑戦は鮮やかな成果として提示され、読者の手に委ねられた。

著者は原子力安全システム研究所主席研究員である。「原子力発電の安全性および信頼性の一層の向上と、社会や環境とのよりよい調和に貢献する」、「原子力発電の発展のための積極的な提言を行う」と謳っているように、中立性を装うことすら気にとめない原発推進機関の一員である。風評被害、過剰反応、ベストミックス、アベノミクスといったイデオロギーに塗れた語をふんだんに用い、ポジティブ・ネガティブという言葉を原発肯定と否定のそれぞれに割り振るなど、原発擁護の情熱が随所に滲み出ている。

だが、それは本書の価値を損なうものではない。三要素モデルの分析の彼方に、放射性廃棄物、経済性、マスメディアの機能をめぐるディスカッションを配置し、今後を展望する姿勢は読者の共感を得られるだろう。ここから多彩な議論を喚起しうる、脱原発派必読の書といえよう。
この記事の中でご紹介した本
原子力発電世論の力学 リスク・価値観・効率性のせめぎ合い/大阪大学出版会
原子力発電世論の力学 リスク・価値観・効率性のせめぎ合い
著 者:北田 淳子
出版社:大阪大学出版会
以下のオンライン書店でご購入できます
「原子力発電世論の力学 リスク・価値観・効率性のせめぎ合い」出版社のホームページはこちら
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